SUPER PIIIDME / SUPER MICRO


CPU Type:Slot 1 (SC242) *2

Chip Set:82840(MTH) + 82801AA(ICH) + 82806AA(P64H) + 82804(MRH-S) *2 / Intel

FSB Clock:100, 133MHz

RAM Module Type:168pin 3.3V PC/100 SDRAM DIMM *2*2

Ext.Slot:x4 AGP Pro *1, 32bit 33MHz PCI *4, 64bit 66MHz PCI *2

Ext.Onboard Device:i82559 / Intel (100base-TX LAN)

Power Supply Type:ATX

Board Form:Extended ATX

BIOS: AMI flash BIOS(HIFLEX)


 Intelが440GXチップセットの後継機種として発表したIntel 840チップセットを搭載する、拡張ATXフォームの大型マザーボードである。

 トラブルの発生したMS-6163の代替名目で、2000年9月14日に中古品を購入した。

 Intel 840チップセットは本来Pentium II/III XeonのDual/Quad接続を前提としてデザインされたWorkStation/Server用チップセットで、米Rambusが開発した高速メモリであるDRDRAM(注1)およびCPUとのインターフェイスを搭載する82840(MCH:Memory Controller Hub)、通常の32bit 33MHz PCIバス及びISAに代わるLPC(Low Pin Count)バスのインターフェイスを備え、これらに加えてUSBインターフェイスやUltra ATA/66インターフェイスのコントローラを内蔵する82801AA(ICH:Interface Controller Hub)、ICHにではなくMCHに専用インターフェイスで直接接続され、PCI Rev.2.2準拠の64bit 66MHz PCIバスインターフェイス機能を提供する82806AA(P64H: PCI 64bit Hub)、そしてDRDRAMに代えてSDRAMを用いる場合には、通常のPC/100規格準拠SDRAMとMCHが備える2チャネルのDRDRAMインターフェイスのプロトコル変換を行う82804(MRH-S:Memory Repeater Hub for SDRAM)*2(場合によっては*4)の合わせて3〜7のチップが、Hubインターフェイスと呼ばれるバス幅を減らして高クロック駆動される新インターフェイス(注2)で結合されるという、かなり複雑且つ大規模なチップセットである。

 既に良く知られている通りこの840は下位機種である820と共にDRDRAMの使用を前提に設計されていたが、DRDRAMを実装するRIMMのあまりの高価さやデリケートさ、それにDRDRAMそのものの設計製造面での制約の多さ(注3)故に市場での支持を得られず、上記の様にMRH-SあるいはMTH(Memory Translator Hub:82820用)と呼ばれるDRDRAM-SDRAMインターフェイスプロトコル変換チップを追加搭載する事で汎用のPC/100 SDRAMを利用可能としていたのだが、このMRH-SあるいはMTHには、SPD搭載でないPC/100 SDRAM DIMMは使えない、あるいはチップによってはクロック変動マージンの関係から正常動作しない、等といった相性問題があり、加えてECC対応メモリを使用する際に高負荷による問題が生じ易いという問題点が存在した。

 この上、820のMTHについては高負荷時にエラーが発生するという致命的と言って良い欠陥を抱えている事が確認された為、リコール・生産打ち切りが決定され、搭載マザーボードが回収されるという騒ぎに発展してしまった。

 また、こうした820用MTHを巡る騒ぎのお陰で、そこまで致命的では無かった840のMRH-Sについても信頼性が売り物のサーバ用という事を考慮してか、結局製造が打ち切られてしまっている。

 つまり、このマザーボードやTYANのS2257 Thunder 2400の様なMRH-S搭載によるPC/100 SDRAM対応版840搭載マザーボードはいずれも早期に生産完了となっている。

 それやこれやで問題山積みのマザーボードなのだが、2000年初秋の時点で「正しく動作するAGPスロットと64bit 66MHz PCIスロット、それにSDRAMソケットを備え、しかも市場で比較的安価に入手可能なマザーボード」という条件を出すとこれ以外には皆目選択肢が無かった為に購入した。

 ちなみにこのボードはその搭載機能の割には大柄で空きスペースも多いが、これは結局日本市場では発売に至らなかったLSI Logic製SCSIコントローラ搭載モデルであるPIIIDM4/DM6と基板が共通であった為で、Adaptec製の1ch Ultra 160/m SCSIコントローラであるAIC-7892を搭載して出荷された姉妹機種であるPIIIDM3とは基板が別設計となっている。

 実を言えば、Server Works(旧RCC)のServer Set III WS/HEチップセット搭載の製品の中には別項で紹介したTYANのS1867DLU3AN Thunder2500の様に上記条件の大半を満たす製品が無い訳ではなかったのだが、如何せんあまりに高価(実売価格が10万円を軽く超える)で、しかもAGPの実装に問題があってGeForce系グラフィックチップ搭載カードがほぼ全滅であったり、RegisteredタイプのRIMM並に高価なDIMMが必須である等、様々な制約があった為にそちらは諦めざるを得なかった。

 そんな訳である意味非常に消極的な理由で購入したマザーボードなのであるが、相当手こずらされたものの一旦安定動作し始めてからの高速性は同一CPU、同一HDD&インターフェイス、そして同一グラフィックカードという条件下でTYANの440GX搭載マザーボードであるS1837UANG Thunderboltを凌駕しており、足かせとなるMRH-Sを使って尚、840が440GXの後継機種足り得た事を証明している。

 但し、この製品で充分な性能を得るには64Bit PCIスロットへの66MHz 64Bit PCI対応SCSIカードの搭載が事実上必須(注4)で、しかも上述の通り搭載メモリの許容範囲が極端に狭い為、我が家での動作実績では、メモリはWinbond製128Mbitチップ(W981208H-75)8*2=16枚搭載のPC133 CL=3 256MB DIMMでは正常且つ安定的に動作したが、PC125 CL=2の日立製チップ搭載128MB DIMMでは問題が多発した。

 聞けばMRH-SはSDRAMの動作についてPC100のレギュレーションを特に厳密に遵守したメモリチップを要求する由で、動作が速過ぎても遅過ぎても問題が発生するらしい。

 何とも厄介な話ではあるのだが、その一方で一旦安定すると、本当に安定した動作を期待出来るのも事実であって、このボードで充分な満足を得るにはそれ相応の覚悟と出費が要求されるものと理解されたい。

 更に、このボードに実装されたケミコンはどうも電解液の品質に問題があったらしく、後年になってトラブルが続出する原因となった。

 このあたりは「鉄板」と評されるほどの安定度を誇ったP6DGx・P6DBxシリーズ(注5)で知られたSUPER MICROらしからぬ粗相で、筆者を含めこの製品で初めてSUPER MICRO製品に触れた人間の信頼を裏切ったのは確かである。

 なお、これは余談だが、このボードにYMF-744搭載サウンドカードを挿してWindows 2000をインストールすると、PnPによるWindows 2000同梱InBoxドライバ(MS製DS-XG Legacy Sound Systemドライバ)の自動インストールによって青画面を出して停止してしまうという問題が発生する。

 これは恐らく当該ドライバの不備が原因と考えられ、事実同系チップであるYMF-754でYAMAHA純正の最新ドライバをインストールした場合には、これは一切発生しない。

 つまり744でも、まずSafeモードで起動してこのInBoxドライバをインストールされないようにした上で、YAMAHAの提供している新しいWDMドライバをインストールしさえすればこの組み合わせでも問題なく動作する筈なので、この問題で詰まって悩んでおられる方にはこの回避策を採ってみられる事をお勧めしておこう。

 また、このボードのBIOSには(バージョンに関係なく)、USBキーボードがDOS上で使えない/ブート時にUSBキーボードとPS/2キーボードを同時に接続していると共に認識しなくなる、という問題がある。

 あるいはこれは、キーボードの機種によっては発生しない可能性もあるが、筆者の環境では複数の種類のキーボード/USB to ADB・PS/2コンバータで、しかも前者はHubを介した状態で、これらの症状が発生している。

 前者については、USBキーボードをPCIスロットにUSBインターフェイスカードを挿してそちらに繋げば当然解決がつくが、後者については、DOS上では素直にPS/2キーボードを使うのが正解の様である。

 最後に、840チップセット及びIntelの名誉の為に付言しておくが、このチップセットは前述の通りメモリアクセス性能が440BX/GXと比較して一目でわかるレベルで高く、440BX/GXではサポートされていないAGP 4xと64bit 66MHz PCIバスがサポートされていることから、これらの機能を生かせるカードを挿して使用する場合の性能は、Pentium III対応チップセットとしては最強と言って良いレベルのもの(注6)であった。

 また、Pentium4/Xeon用チップセットであるIntel850/860は共にこの840を基本としており(注7)、Intel製チップセットの発達史を考える上では重要な製品である事も特に強調しておく。


 (注1):Direct Rambus DRAM。基本的にはバス幅を16bit(ECC無し)あるいは18bit(ECC有り)と一般的なSDRAM DIMMの1/4に縮小し、その代わりにメモリ駆動クロック周波数を4倍速以上に跳ね上げる事で通常のSDRAMと同等以上の性能を確保するメモリ技術。少ないチップ数で広帯域転送が可能である(DIMMの場合は16bit入出力のDRAM4チップで1バンクを構成するので、16/18bit入出力の1チップで済むこのDRDRAMだと自動的にチップ数は1/4以下という事になる)事から当時次世代メモリの最有力候補と目され、実際PlayStation2に採用されて威力を発揮している。このメモリはチップ自体にインテリジェントなコントローラを搭載して(但し、当然ながらその代償としてダイサイズが大きくなる)、バスラインを一筆書きのデイジーチェイン接続をするというSCSIと良く似た設計コンセプトを備えるが、それ故に空きのRIMMソケットがある場合には必ずC-RIMM(Continuity RIMM)と呼ばれる信号線を接続する為だけのモジュールを挿さねばならず、とりあえず空きソケットに順次挿してゆけば動くDIMMに慣れた一般ユーザーにとってはかなり敷居の高いデバイスであった。

 (注2):P64H−MCH間は16bit 133MHz、MCH−ICH間は8bit 133MHzのデュアルエッジ駆動で接続され、それぞれ533MB/sと266MB/sという、これまで用いられてきた32bit 33MHz PCIバス以上の転送レートが少ない信号線本数で確保されている。この事で判る通り、これもDRDRAMと同じ設計思想に基づくもので、この時期のIntelがバスのシリアル化を強く指向していた事が見て取れよう。ちなみに、この方針自体は間違っておらず、IEEE1394やUSB等を見ても判る通りバスのシリアル化は世の趨勢なのだが、メモリについては結果論になるがこの時点でのRIMM導入の強行はやはり時期尚早に過ぎた。メモリモジュールのバスインターフェースがシリアル化されるには、DDRSDRAMでさえ高速化でメモリバス上でのチップのstub構成が困難になってしまいつつある事への対策として2006年からサーバ・ワークステーション向けに導入開始されたFB-DIMM(Fully Buffered DIMM)と呼ばれるレジスタードメモリの延長線上に位置する技術(AMB(Advanced Memory Buffer)と呼ばれるバッファ/トランスファチップをDIMM上に実装して通常のDDR2 SDRAMをこれと接続/プロトコル変換する事で、メモリコントローラとAMBの間をシリアル通信で接続する)の登場を待つ必要があった。しかもこれも2007年にはまた否定されてDDR3 SDRAM DIMMへ逆戻りとなるよう方向付けられる有様であり、メモリバスのシリアル化への道のりは非常に遠い。

 (注3):その価格には高額なRambusへのライセンス料が上乗せされており、多くのメモリベンダーがこれに反発した。Intelの威光を背景として当時のRambusは傍目から見る限りかなり横柄な態度を取っていて、しかもSDRAMについてサブマリン特許と目されるライセンス料支払い請求を後から突きつけた為にメモリベンダー各社の深い恨みを買い、最終的にIntel以外の各社が対抗技術であるDDR-SDRAMを全力で推進する原因を自分で作ってしまった程であった。また、チップ内メモリコントローラであるDRDRAMインターフェイス部分はRambusよりリファレンスデザインが提供されるが、それについては契約上プロセス変更によるシュリンクなどの改変が許されず(但しこれは迂闊に改変されると互換性が維持できなかった為でもある)、チップ設計(主にレイアウト)上自由度が大幅に減じる為かなり厄介な制約となっていた様だ。加えて、RIMMやマザーボード側でバスラインのインピーダンスの整合を非常に厳密に行う必要があり、Intelでさえ820では失敗したのであるから、要するにこれは当時としては過ぎた技術であったという事になろう。

 (注4):理由は良く分からないのだが、32bit PCI SCSIカードをICH接続の32bit 33MHz PCIバススロットに挿した場合、かなりパフォーマンスが低下する事が確認されている。ICH自体はIntel 810チップセットでも使用されているものなのでこれそのものが原因というのは考え難く、恐らくこのマザーボードのBIOSかあるいは840 MCHのHubインターフェイスの問題ではないかと推測される。実はこのPIIIDME/DM3用BIOSは開発が途中で放棄されてしまっており、1.0GHz版のPentium IIIを使おうと思うとSUPER MICROのFTPサイトにあるβ版BIOSを書き込む必要がある。ついでに書くとその最終ベータ版でも問題は山積で、普通はどのスロットに挿しても大概動く(オンボードデバイスを切ってある場合)CanopusのMTV3000Wがある特定のスロット(筆者の環境では64bit PCI隣の32 bit PCIスロット#4)に挿さないとIRQのルーティングに失敗してWindowsが起動しなくなる(困って調べてみるとBIOSのIRQルーティング周りが恐ろしい手抜き状態らしい)など、メーカーの良識を疑う様な状態で放置されている。もっとも、このボード自体はMRH-Sの件でリコール対象らしいのでそれも致し方ないかとは思うが、聞けばRIMM版のPIIIDRE/DR3でも事情は同じらしい。

 (注5):本製品と同時期に生産されたロットについては、やはりケミコンについて同様のトラブルが発生しており、後年評価を大きく下げている。ちなみに同時期のTYANが手がけたS1837UANG ThunderboltやS1832 Tiger 100などの同クラス品ではこの問題は筆者の知る限り発生しておらず(もっとも、後に同社が出したS2460 Tiger MPでは高クロック版Athlon MP搭載時に、ケミコンを筆頭とする電源回りで問題が多発したが)、明暗を分けた形になっている。

 (注6):少なくとも、筆者の知る限り、同一クロックのPentium III搭載という条件の下であれば、総合的な性能で840に勝るチップセットは存在しない。例えば、開発時期が近く使用条件も近いことから比較されることが多いServer Set III系は、HE・HE-SL・WSがn-wayメモリインターリーブのサポートでメモリ周りの速度が840に匹敵あるいは凌駕し、条件次第(HEでPC133 CL=2のメモリを使用して4-wayインターリーブを行い、かつ、局所性の低いメモリアクセスが頻発する使用状況など)ではこれを圧倒するほど高速だが、AGPの扱いにあまりにも難があってACPI実装にも問題があるものが多く、ノンストップで運転される高負荷サーバ以外では実用上不利である。また、他のIntel・VIAなどのチップセットでは、VIAのPC2100 DDR-DRAMをサポートしたApollo Pro266を含め、840に勝るメモリアクセス性能を備えたものは存在しない。

 (注7):基本的には840からP64H用のHubインターフェイスを省いてCPUバスをNetBurstに変更したのが850、何も省かずCPUバスをNetBurstに変更しただけ(但しICHはその時点で最新のものが使用されている)なのが860である。これらが示した高性能ぶりを見る限り、840では性能発揮に当たってP6バスが足枷になっていた可能性が高い。なお、860でx86プロセッサ用DRDRAM対応チップセットは打ち止めとなった為、IntelはことDRDRAMに関する限り、1999年の820/840から先へは殆ど進めなかったという事になる。


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