PC-9801-86 / NEC
接続バス:C Bus (16bit)
サウンドコントローラ:YM2608B (OPNA) / YAMAHA + HE6-0023 "TEEMAL" / NEC
対応機種:PC-9800シリーズ
動作確認マシン:PC-9821Xa9/C8,PC-9821Xa7/C4,PC-9821Xv13/W16,PC-9821RvII26/N20,PC-9821Ra300/M40,PC-H98 model U105-300,PC-9821Xe10/4-Z, PC-98RL5, PC-9821Ra20/N12
1993年1月にPC-9821Ap/As/Aeシリーズ、つまり所謂初代Mate Aと同時に発表された、前年秋に先行デビューした初代PC-9821の内蔵音源と同等の機能を実装するPlug and Play非対応のCバス用サウンドボード。
機能的には1991年11月にデビューしたPC-98GSに搭載された音源をCバスボードにまとめたPC-9801-73(定価\90,000!)からDSPやADPCM用のバッファRAM、+2ch分のDAC等を省略して(注1)低コスト化したものであるが、使用時に初期化の必要なDSPを持たずSoundIDも異なるため、PCM再生に関しては完全な互換性を持っていない。
ただし、Windows用ドライバはSoundIDで機種判定してDSPの初期化だけ分岐処理することで共用となっており、DSP以外のPCM回りの回路設計そのものはほぼ同じと推測される。
このボードの定価は前々作たるPC-9801-26Kと同じ\25,000で、今では考えられないような価格であるが、これでも発売当時はNEC純正ボードにあるまじき低価格ということで大変な評判になった。
回路構成は、FM音源チップがヤマハのYM2608B(OPNA)、バスコントローラがNEC自社製のHE6-0023 “TEEMAL”、PCMのDACがバーブラウンのPCM61P *2、それにディスクリート構成のアナログ回路となっており、機能的/ソフトウェア的にはMate Aの内蔵音源と同等ながら、汎用のCバス対応とするためにそちらとはチップ構成がかなり異なっている。
これは本来、そこいらの内蔵音源よりは遙かに高音質が得られる筈の設計(注2)なのだが、FM音源回りの回路構成がリファレンスデザインを遵守するあまりに、OPNA内蔵のADPCMによるサンプリング機能を使わないこのボードでは不要なチップ(注3)を搭載して余計なノイズを増やし、おまけにダイナミックレンジを狭めてしまっているためにその凝りに凝った設計の割には音質面で評価して貰えなかったという、ある意味不幸なボードである。
ちなみにこの問題は「ちびおと」を製作したMad FactoryのGRIFF氏の手で、「ざべ」誌上にて当該チップを除去して音声信号をバイパスさせ、さらにノイズ除去用コンデンサを付加するという改善策が紹介されているが、ボードを改造することになるので善し悪しである。
筆者は実際にその改造を試してみて、その音質向上にいたく感激したクチなのだが、パターントレースその他様々な実験を繰り返してこの様な配線がとりあえずGRIFF氏によるオリジナルの改修案(XRU4066BFの信号パターンのところでバイパスさせる)よりも良好な結果を得られる事を確認している(注4)。
無論この作業はあくまで筆者の自己責任において行ったものであるし、また当然ながら推奨するものではないが、この一連の改造でオリジナル状態とは「聞き比べるまでもなく明らか」な音質差が現れたことは明記しておく。
このボードは機能的にはOPNA部が4オペレータのFMシンセがステレオ6音(うち1音は効果音として使用可能)、SSG音源がモノラル3音、それにADPCMサンプリングのリズム音源がステレオ6音という、この時期の1チップものとしてはかなり豪勢なもので、しかも前作PC-9801-26Kで採用されていたYM-2203(OPN)とのレジスタレベルでの上位互換性を確保してあるため、既存のモノラルFM音源対応ドライバや曲データがそのまま使え、加えてこれとは独立して最大44.1KHzサポートのステレオPCM録再機能が与えられている為、ドライバさえ書ければFM6音+SSG3音+リズム6音+PCM(これについては理論上CPU性能とメモリ性能の許す限り何音でも(通常は8音)多重化可能である)という凄まじい再生環境をこれ一枚で実現できる。
事実、98が市場で現役だった最末期(1995〜1997年頃)にはFMP+PPZ8やPMDPPZ+PPZ8といったフリーのドライバでこの環境が実現して、これまでになく厚みのある音楽再生が可能となって好評を博した。
無論、これはこの時期の98本体のCPUパワーがDOSでは使い切れない程高速化したからこそ実現した機能だが、そういったパワーの有り余るマシンがあって初めて機能を十全に使いこなせた、という事実が示す通り、このボードはPCM周りのパフォーマンスがCPUパワーに依存する傾向が強い。
上記の通り、シンセサイザ内蔵音源ボードとしてはかなり高性能であった上にNEC純正の標準音源でもあったため、これは中期以降のPC-9800シリーズ対応のDOS対応ゲームでは当然にサポートされ、末期には前述のFMP/PMDを利用して性能を限界まで絞り出したサウンドモードを持つゲームが(その殆どがいわゆる18禁ゲームとして)多数現れた。
従って、この時期のDOS版ゲームをプレイするにはこのボード(あるいは同等の音源を内蔵する9821本体、あるいは86互換を明記する互換ボード)が事実上必須(注5)で、86互換を謳うサードパーティ製サウンドボードでも大半はPCM回りの互換性が確保出来ていなかったため、このボードはかなりの長期に渡って中古市場で高値安定が続いた。
ちなみに、発表時期からも明らかな通りこのボードはPnP非対応で、リソースはDIPスイッチの切り替えで設定するタイプだが、98のサウンド関係のリソースは26K以来ほぼ固定であった為、工場出荷時の設定から変更するのはサウンドBIOS(N88(86)-BASICからも利用可能)の有効/無効設定位のものだろう。
只、シングルタスクのDOS全盛期に設計されたことから、マルチタスク化が進んだWindows95以降では、CPUに負担をかける(注6)FIFO転送を採用したPCM回路の実装方法がアキレス腱となり、PCM再生中に音が途切れる等の問題が多発した。
この結果MateXやCanBeではこのボードと同等のPCM音源の搭載は見合わされ、より安価でWindows環境に適したWSS(Windows Sound System)-PCM互換音源に移行することとなった。
(注1):故にそのままではADPCMは使えない。ADPCMはOPNAチップに搭載された機能だが、バッファRAMが無いことにはデータの圧縮展開ができないのである。
(注2):PCMのDACとして結構高価だったバーブラウンのPCM61P(本来2ch出力なのでこれ1つで事足りる)を2チップ搭載しているだけでも半端ではないが、これに加えて音質を管理するためのエイジング用電源入力コネクタまで実装されており、相応に音質に配慮した設計だったことが見て取れる。
(注3):XRU4066BF。ADPCM動作の時、ここで回路を切ってサンプリングデータに余計なノイズが入らないようにするためのチップである。元々OPNAチップの開発元であるヤマハ自身が提供していたリファレンスデザインで搭載が推奨されていたため、素直に実装されてしまったらしいのだが、このチップ自体の問題で、入力音声信号がこのチップを通過する際の信号の劣化が著しく、特に高周波数帯域の信号特性が悲惨なくらいに悪化するため、せっかくクリアなFM部の音質が盛大に鈍ってしまっている。なお、PC-9801-86の場合、ADPCMに音声信号を入力できるような配線にはなっていない(ちびおとを積んでも再生が可能になるだけである)ので、このチップは百害あって一利なしである。
(注4):当然、ここで書いた以外のコンデンサ追加(YM3016-Dの1-2ピンか2-3ピンの間に10V以上で10〜33μF位のタンタルコンデンサを追加)はオリジナルの改修案通りで、また配線材は良質かつ可能な限り太いものが望ましいようだ。
(注5):86互換音源でなくとも、最低でも26互換音源があれば動作するゲームが殆どだったが、中にはEXITの“Grounseed”の様に26互換と86互換で曲そのものが差し替えられてしまう場合があったので、これがあるのと無いのとではゲームそのものの印象がまるで違ってしまうことが多々あった。
(注6):DMA転送に比べるとどうしてもCPU負荷が大きくなる。なお、念のために書いておくと、DMA転送を使用するWSS系チップで万全かというとそんなことはなく、WSSでもWindows使用時に高負荷で音切れする現象は結構発生していた。PCMをWSSにすれば何でも解決する、というものではないのである。
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