S2466N-4M Tiger MPX / TYAN


CPU Type:Socket A (PGA462) *2

Chip Set:AMD-762 + AMD-768 (AMD-760MPX) / AMD

FSB Clock:200,266MHz

RAM Module Type:184pin 2.5V PC1600・PC2100 ECC Registered DDR-SDRAM DIMM *4

Ext.Slot:x4 AGP *1, 64bit 66MHz PCI *2, 32bit 33MHz PCI *4

Ext.Onboard Device:3C920 / 3com (100base-TX LAN)

Power Supply Type:ATX

Board Form:ATX

BIOS: Phoenix BIOS 4.0 Release 6.0


 2002年4月より出荷が開始された、B2ステッピング(注1)のAMD-760MPXチップセットを搭載したDual Socket A対応ATXマザーボード。

 2001年末にオンボードUSBコネクタを殺して暫定的にデビューしたS2466N Tiger MPXの修正・小改良版に当たり、前述の通りAMD-768チップのステッピングがB1からB2に上がってオンボードのUSBポート(4Ch)が利用可能になった他、如何なる理由によるものか、ファームウェア格納用ROMチップの容量が2Mbitから4Mbitに倍増されている。

 AMD-760MPXチップセットは、AMD-760MPチップセットと同じNorth Bridgeチップ(注2)を用いつつ、同チップでサポートされてはいたもののSouth Bridgeチップ(AMD-766)が対応しなかった事から無効化されていた64bit 66MHz PCIバスを利用可能とする為に、内部に64bit 66MHz PCI→32bit 33MHz PCIバスブリッジ機能(注3)を搭載しAC'97サウンド機能(注4)まで内蔵した新South BridgeであるAMD-768を組みわせ、更にAthlon MP 2基によるSMP動作をサポートする、主としてローエンドのサーバ/ワークステーションでの利用に主眼をおいた設計のチップセットである。

 前述の通りこのチップセットはその開発にあたってトラブルが続出し、それは特にUSBやPCIバスブリッジをはじめとするAMD-768の新機能に集中的に発生した事が知られ、事実2001年冬に暫定的に出荷された当チップ搭載マザーボード群は悉くオンボードのUSBインターフェイスを無効化する処置を施して出荷するというひどい有様であった。

 その状況下で登場したこれは、TYANがAMDのこの系統のチップセットの開発パートナーであるという立場にあるが故に、その主立ったバグの修正が終了(注5)したB2 Steppingの760MPXを搭載して最初に市場に出荷された曰く付きの、そして待望の製品であった。

 チップセットの変更に伴ってPCIスロットの構成が変更(注6)された他、オンボードデバイスとして3comの3C905C互換100Base TX LAN対応チップである3C920が実装され、VRM回路の構成が大幅に変更・強化されてATX 12V/Drive Power(注7)端子が新設されているのが目を引く。

 つまり、これは2460とは「全く似て非なるもの」であって一見似た感じには仕上がっているものの、S2460の問題点を徹底的に改善したほぼゼロからの新規設計品(注8)であると考えられる。

 この製品に搭載された64bit 66MHz PCIバスは、SUPER PIIIDMEのそれと比べるとチップセットの構成の関係で色々制約が多く、66MHz動作という条件では実際に挿す事の可能なカードはかなり限られる。

 つまり、この点では前々作に当たるS2460 Tiger MPより不便という事になる(注9)訳だが、一方で64bit 66MHz PCIのパフォーマンスをどうしても必要とするニーズがあるのも確かで、実際、S2460では性能が充分出なかった64bit 66MHz PCIに対応したデバイスの性能がこちらではフルに発揮できている事を考えると、目的さえ明確ならばスロットの制約を乗り越えてでも購入する価値はある。

 無論、3.3V動作可能なカードならば33MHz駆動のものでも挿せば動く事は動くのだが、その場合は折角のバス性能が殺されてしまう事になり、「PCIバス周りが使いにくいが電源周りの強化されたS2460」といった感じになってしまう(苦笑)。

 このボードには例によって初期出荷時点でのBIOS(Ver.4.01)ではVGA回りに問題があって、RADEON 7500/8500がプライマリのVGAグラフィックカードとして利用できない(プライマリにすると起動途中で固まる)という厄介な問題(注10)を抱えていたが、2002年5月に公開されたβ版BIOSであるVer.4.01f(正規版ではVer.4.03)以降ではこの問題はきちんと対策が施されている。

 この問題と先述の64bit 66MHz PCIスロットに関わる制約を除けばこれは意外と使い勝手の良いボードで、オンボードのLANもそこそこ上物(注11)であるので、かなり自由度が高い。

 但し、搭載CPUが基本的に高発熱で有名なParominoコアのAthlon MPなので、このマザーボード(注12)でParominoコアの高クロック版Athlon MPを2基搭載したマシンを組む際には特にCPUの温度(分けても2CPU間の温度の偏差)に注意されたい。

 あるいは、このボードのPCIバス性能のみを目的としていて特にデュアルCPUによる高負荷動作性能を特に要求しないのであれば、低発熱・高速しかも安価なThoroughbredコアのAthlon XP単発の方が幸せになれるかも知れない事は明記しておく。

 これは完全に余談だが、筆者が確認した範囲では、このボードの32bit 33MHz PCIスロットにCanopusのMTV3000Wを挿して使うと音声にかなり目立ったノイズが混入する事が判明している。

 64bit 66MHzスロットに挿した場合にはこの症状が出ない事から、これは恐らくAMD-768の内蔵PCI to PCIバスブリッジが発するノイズが原因ではないかと推測しているが、あるいは66MHz to 33MHzクロック変換の過程で発生している可能性も否定出来ない。

 そんな訳で、このボード上でヴィデオキャプチャカードを利用する事を検討しておられる方には特にノイズにご注意願いたい。

 なお、このボードではレギュレータ回路周りの大幅強化(注13)とATX12V規格へ対応したのが効いたのか、電源周りに関するトラブルが前作と比べて激減しており(注14)、それだけでも乗り換える価値があるのは確かである。

 また、この製品は2005年6月まで新品での購入が可能で、それどころか製品としては既に“終わっている”筈の2005年2月の段階でGeode NX 1750に対応した専用カスタマイズドモデル(Tiger MPX for Geode NX Special Edition。CPUコア電圧1.2Vに対応)まで発売されており、実に3年以上もの長きに渡って販売され続けた驚異のロングセラー商品となっている。

 初期のBIOSに色々問題があった事や電源の条件が厳しい事、それに拡張スロットの扱いに注意が要る事などから色々騒がれたが、この異例の長期販売(注15)でも判る通り、この機種は“Simple is the best.”を地で行く本当に良く出来た製品で、傑作の名に値すると筆者は考えている。


 (注1):かなり大規模なバグ修正が行われていて、これまで使用不能だった内蔵USBコントローラが使用可能となっている。

 (注2):AMD-762:但し、当然ながらリビジョンが違うのでS2460に搭載された物よりは確実にバグフィックスが進んでいる。

 (注3):一説に依れば内部的には32bit 66MHz→64bit 33MHz変換を行っている由であるが、真相は定かではない。

 (注4):Codecチップと組み合わせて使用する。なお、このボードでは無効とされている。

 (注5):但しその修正も完全ではないらしく、新リビジョンでも機能的に殺してある/ソフトで回避している部分が多い由である。

 (注6):64bit 66MHz PCIバススロットの仕様およびチップセットのサウスブリッジに内蔵されたPCIバスブリッジ機能の制約から、S2460と比較して32bitスロットと64bitスロットの数が逆転している。

 (注7):内蔵HDDなどに使う汎用5/12V電源コネクタを接続して12Vを給電する端子で、本来はASUSTekが最初に導入したアイデアである。

 (注8):無論その設計ノウハウは大いに継承されたであろうが。

 (注9):それ故S2466登場後もS2460は暫く生産が継続された。OEM供給契約の関係もあったであろうが、最初のS2466がオンボードUSBを無効にして出荷された暫定版であった事も原因の一つであろう。

 (注10):別種のPCIグラフィックカードを挿してプライマリとし、AGPのRADEON7500/8500をセカンダリにすれば全く問題なく動作する。つまり、チップの電気的な問題ではなく、VGA BIOSというソフトウェアの問題であった事が判る。

 (注11):この3C920チップは3C905Bの後継モデルで、あのThunder K7にも搭載されていた。もっとも世評では前作に及ばないとされるが、それでもCPU負荷や安定性は当時の台湾メーカーが好んで採用していたRTL8139系とは比較にならない程優秀である。

 (注12):この機種だけでなく、AMD-760MP/MPXを搭載する全てのマザーボードに共通する問題ではある。

 (注13):カタログ上では特に謳っていなかったが、搭載されるケミコンの大部分がZLHやMBZといったルビコン電子製の最新高級モデルになっていて、一番良くてもルビコン電子のZL(これ自体はかなり優秀なケミコンだが特性面で上位のZLHやMBZに劣る)でそれ以外は安物が目立ったS2460と比較すると目に見えない/カタログスペックに現れない部分で性能が底上げされているのが判る。

 (注14):ちなみに上位のThunder K7/K7X系は専用のATX-GES電源やより強力な給電能力を備えるSSI-EPS12V電源が必須の設計なので、この種のトラブルはまず発生しない。勿論無闇やたらとドライブ類を接続してそれに給電するというなら別だが、市販されたATX-GES電源は総じてかなり余裕を持たせてあるので通常使用の範囲では無問題と考えて良い。

 (注15):実はこの機種は法人ユーザーの支持が厚く、そんなユーザーによる大量購入も結構あった由である。只、この製品が売れ続けた背景には、AMD系CPUデュアル搭載マザーボードの後継となるべきOpteron用チップセット搭載製品でAGP+64bit PCI+32bit PCIというスロット構成を標準ATXサイズで実現可能な物が存在せず、その置き換えが事実上不可能であった為、という厄介な問題があるのも事実である。


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