X1(CZ-800C)

 X1シリーズ最初のモデル、いわゆる「マニアタイプ」です。銀色やグレーが光の加減で飛んでしまって白く見えるのではなく、また塗り替えたわけでもなく、そもそも白い「スノーホワイト」というカラーリングのものです。

 X1の登場は、シャープ内部のお家事情など分からない中学・高校生の身ではそもそもの存在意義がよくわからず、でもそのスペックはMZファンとしても十分納得できるもので、近所の兄ちゃんが買ったという話を聞いては素直にうらやましいと思ったものです。

 カラーバリエーションもそれまでになかった発想で、そもそも家電部門が作ったのだと後から聞いてなるほどと思ったものですが、同時に「どれかが売れなかったらどうなるんだろう?」と変な心配さえしたりしました。

 というのも、ローズレッド(赤)・シルバー(銀)・スノーホワイト(白)というラインナップを見て、まず「白はないな」と思ったりしたからです。赤もびっくりだけど、銀が無難だろうと。
 しかしご存じの通り赤に大変な人気が集まり、以後ノーマルX1はFまで、turboは初代モデルにまで赤が設定されます。それどころか周辺機器まで赤モデルが設定されたわけですから、どれだけすごかったかと想像されます。

 逆に白は私の予想通り不人気色となり、本体とディスプレイテレビ以外に設定された製品はありません。ヤフオクなんかで見るとX1FやX1Gの赤や黒ではないモデルが白く見えますが、あれは白ではなくグレーです。X1turboで初めて設定されたところからの流れですね。

 ところが、今になってX1のファンからはあれだけ不人気だった白が「美しい」と関心を持たれるようになっています。売れなかった分レアな存在になっていることもあるんでしょうが、一方でOh!X誌の連載エッセイ「霧降高原より」も影響しているのではないかと思います。少なくとも私がスノーホワイトを意識するようになったのはその記事以来です。どんな内容だったのか紹介したい所ですが取り出すのが超大変なのでまた今度の機会ということで…。


X1シリーズのカラーバリエーション戦略

 X1シリーズの最初の製品、いわゆる「マニアタイプ」が発表された時、いろいろなことが衝撃的だったのですが、カラーリングというか「カラーバリエーション」があるのも驚きのひとつでした。ここはそれをお題にX1シリーズをメインとしたパソコンの「色」の話をしたいと思…ったのですがさすがに範囲が広すぎますので、いわゆる「カラバリ」についてX1シリーズがどう変遷したのか追ってみようと思います。

 さて前述の通り、X1はローズレッド(赤)・シルバー(銀)・スノーホワイト(白)という3色のカラーバリエーションのある製品として発表されました。本体とキーボードはもとより、専用ディスプレイテレビまでその色で統一されたシステムは実にかっこよかったのです。

 とはいえ…X1登場時カラバリがあったのは本体とディスプレイテレビだけでした。考えてみれば全ての周辺機器に同じカラバリを用意するのはかなりリスキーです。本体についてはひとつのチャレンジとして、もしかすると上層部から「ウチは家電なんだからカラバリあったっていいじゃん」などと指摘されたりなんかして設定することは比較的容易でしょうけど、採算についてさらに真面目に考える必要のある周辺機器ではリスクを負いたくないのが正直なところ。なので絞られた色とは…。

 シルバーでした。これは多分最初の周辺機器総合カタログなのですが、その象徴となるモデルにシルバーが選ばれています。
 おそらく、3色の中から選んだというよりは、元々シルバーしかなかったか、あるいは「これしか売れないだろう」という予想の元にシルバーを代表色と定めたのだろうと思われます。
 なぜシルバーなのか、というのはこのデジタルテロッパー(CZ-8DT)のカタログの背景に写るビデオデッキを見てもらえば分かると思います。当時のAV機器の主流となっていた色はシルバーだったのです。AV機器との融合を目指したX1ですから、その中で浮いた存在になっては困るわけで、一番ふさわしい色がシルバーということになるのは自然な流れでしょう。

 そのため、FDDもプリンターもその他もみんな周辺機器はシルバー基調でデザインされました。これできっと周辺機器と共にX1を買ったユーザーの大多数はシルバーに統一されたシステムを揃えることになるはずです。

 …しかしフタを開けてみると意外にもローズレッドに注目が集まり、またよく売れたために、本体は赤いのに周辺機器は銀というちぐはぐな組み合わせがあちこちで発生してしまいました。ちゃんとした数字を持ってるわけではないので想像の域を超えないのですが、おそらくローズレッドとシルバーはだいたい同じくらいの数の本体が出荷されているのではないかと思います。
 ローズレッドが売れた理由は単なる物珍しさだけでなく、当時ブームを迎えていたラジカセのカラバリとして赤や黒があったことも影響していると思います。自動車なんかではよくありますが、カタログでイメージカラーを設定するとそればかり売れるというのと似てるかもしれません。先にオーディオなどで違和感を払拭してあったからこそのヒットではないでしょうか。

 翌年のX1D/X1C発売時にはすっかりX1シリーズのイメージカラーとしてローズレッドが定着してしまったため、カタログでもそれを全面に押し出す形で編集されるようになっていきます。

 そしてついに、周辺機器にもカラバリが導入されるに至ります。FDD、プリンタ、拡張I/Oボックスにローズレッドが設定されました。一方あまり売れてないデジタルテロッパーはコストの問題かシルバーのままとされています。
 カラバリの波はX1用オプション以外にも及びます。CZ-140Dというディスプレイテレビは、当初シルバーのみの設定でしたが後にローズレッドも設定されるようになります。このディスプレイテレビ自体雑誌にも記事として掲載されなかったこともありよくわからない製品なのですが、おそらくX1専用ディスプレイテレビCZ-800DがパソコンもTVもビデオもつながるということで単体でよく売れてしまうため、X1以外では使えないスーパーインポーズ機能を除いてちょっと安くしたものを製品として出した…のではないかと考えています。それが、もしかしたら客などから「赤、ないの?」とか聞かれる例が増えたため、追加したんではないかと思われるのです。

 カラバリ戦略という流れはX1turboにも引き継がれます。ただ少し違うのは、シルバーがなくなりオフィスグレーが設定されたことと、前面だけで見るとどちらの色でも黒い面積の方が広いということです。オフィスグレーというのはその名の通りビジネス用途でも違和感がないように配慮された色ということであり、400ライン表示と漢字VRAMにより日本語の表示や処理が容易になったことから用途を家庭用以外にも求めるようになった、という意味だと思います。

 ですが黒の方が多いんじゃないかという前面デザインはどこからきたものなのか…。
 想像の域を出ませんが、一つの理由として考えられるのは「FDDのベゼルが黒なのでそれを活かせるようデザインした」。TEACのFDDはMZ-1F07もそうですがベゼルの色は基本的に黒。FDDだけ黒いとバランス悪いのでその周囲も黒くした、というものなんですが…当時NECのPC-8801/9801で使われているドライブのベゼルはベージュばかりですし、シャープだってMZ-6500のは濃いグレーですから、X1turboだって黒以外選べるはず。とすれば純粋にデザインとして黒を使ったということなんでしょうか…。
 X1turboのオフィス志向はmodel40の登場でさらに鮮明化します。ついに全部オフィスグレーに染まってしまいました。オフィスには部分的な黒でも挑戦的すぎるということだったのでしょうか。

 次いで登場したX1Fでも、カラバリ構成はローズレッドとオフィスグレーの二本立てになります。とはいえturboじゃないX1では力不足なのは否めませんので、オフィスグレーといっても色の名前でしかなくオフィスはどうでもよかったのかもしれません。

 X1シリーズでも5インチFDD内蔵モデルが現れたのですが、大胆にもベゼルまで赤にして前面の上半分を赤とするデザインになりました。FDDが赤なのは後にも先にも、もしかしたら他メーカーの製品も含めてこれしかないんじゃないかと思います。

 これだけカラバリ…それも赤をシンボルとして展開してきたのですが、次に登場したX1turboIIではなんとオフィスグレーのみの設定にしてしまいます。もう赤だから売れるという話ではなくなったんでしょうか?

 見た目はX1turbo model40みたいな感じで、ほぼグレー一色になっています。前モデルのオフィスグレー、model40、そしてX1Fでの販売状況はグレー優位ということだったのかもしれません。

 しかし、同時に「X1シリーズ3周年記念」としてブラックモデルの限定発売をアナウンスします。これはかっこいい!雑誌やカタログを見た人は一様に「これ欲しい!」と思ったのでしょう、黒ばかり売れていたようです。

 その人気ぶりにシャープも限定の制約を取り払い、改めてブラックとオフィスグレーの二本立てに設定し直しました。黒が売れたのは伏線があって、やはりオーディオやビデオに黒が流行するようになっていた時勢だったということがあります。昔は銀で揃えた機材がもう黒で揃える時代だったというわけなのです。

 ちょっと解せないのは、黒についてはそもそもX1turboで実験していたんじゃないのかということです。X1Fでも前面下部を黒にするなど、黒の時代の到来を十分認識していたような気もするのです。なのにあえて黒を外してくる作戦は考えにくい。とすると、黒モデルの限定販売はシャープの「仕掛け」だった可能性も出てきます。元々売る予定だったのだけれど、3周年記念ということで特別に、黒いのを限定と謳えばより注目されるのではないか…という企画です。

 その裏付けとしては心許ないのですが、実は周辺機器について、グレーの設定はほとんどなく黒ばっかりなのです。このパンフにしても、プリンタ・HDD・カラーイメージボード(の外付けユニット)など全て黒しかありません。さらにはプリンタもX1turboII発売半年前には真っ黒な製品が登場しています。ですから、本体がオフィスグレーしかないというのはバランスの悪い話であり、もしグレーがメインの色ならば初代X1の時みたいにグレーの周辺機器だらけになっていて不思議はないのです。

 以降のモデルはブラックをメインに据えて展開されていきます。例外はX68000で、これだけはなぜか初代ではグレーしか設定されず、ブラックは半年以上遅れて発売された他、EXPERT II・PRO IIの時代までグレーとブラックが平等な感じで扱われていきます。もっとも初代についてはいずれブラックが発売されると確信する材料がありました。それはX1turboZ用ディスプレイテレビとしてCZ-600Dが指定されており、こちらは本体との組み合わせ上ブラックもあったのと、X68000発売約2ヶ月後(1987年5月)のマイコンショウのシャープブースに黒モデルが展示されていたからです。

 以後どのモデルもオフィスグレーとブラックの二本立てになっていましたが、やはり黒の時代なのかグレーの売れ行きが芳しくないとみえ、X1twin・X1turboZII・X68000SUPERの代からブラック(SUPERはチタンブラック)のみになりました。コストダウンの必要もあったのでしょうが、カラバリという戦略が力を持たなくなったのがこの時期からなのでしょうね。オーディオ機器を見るとゴールドと黒というバリエーションが残ってはいましたが、ゴールドはハイソ向け・黒はカジュアル向けみたいに購買層がはっきり分かれていて、X1マニアタイプの時代のようにカジュアル層がそれぞれの好みで色を選ぶ雰囲気ではなくなっていたように思います。

 最後に、X1シリーズでカラーバリエーションの存在した本体と周辺機器(モニタ関連と本体添付機器は除く、だって本体についてまわるので)のバリエーション一覧を表にしておきます。カラバリの存在した周辺機器の少なさが、パソコン事業でのカラバリ戦略の難しさを表していると思います。

品名 備考
本体
X1        
X1C      
X1D      
X1Cs      
X1Ck      
X1F      
X1G      
X1twin    
X1turbo      
X1turboII      
X1turboIII      
X1turboZ      
X1turboZII    
X1turboZIII    
X68000      
X68000ACE      
X68000EXPERT      
X68000PRO      
X68000EXPERT II      
X68000PRO II      
X68000SUPER    
X68000XVI    
X68000XVIcompact    
X68030    
X68030compact    
周辺機器(モニタ・本体添付関連除く)
CZ-800P     ドットプリンタ
CZ-801F     ミニフロッピーディスクドライブ
CZ-300F     コンパクトフロッピーディスクドライブ
CZ-31F     増設用コンパクトフロッピーディスクドライブ
CZ-81EB     拡張I/Oボックス
CZ-80PK     漢字プリンタ
CZ-81P     カラープロッタプリンタ
CZ-8PP2     カラープロッタプリンタ
CZ-8PD2     ドットプリンタ
CZ-52F     増設用ミニフロッピーディスクドライブ(X1F用)
CZ-6VT1     カラーイメージユニット
CZ-6EB1     拡張I/Oボックス
CZ-6TU     RGBシステムチューナ
CZ-8PC4     熱転写カラープリンタ

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