Sound BLASTER Live! Value(CT4830) / Creative


接続バス:PCI Bus (32bit 33MHz 5V)

サウンドコントローラ:EMU10K1-NEF / Creative + CS4297A-JQ / Crystal Semiconductor

対応機種:PC/AT互換機

動作確認マシン/マザーボード:S2466N-4M Tiger MPXFW-6400GXR/150/WSPC-9821RvII26/N20


 EMU10K1系では3世代目に当たるEMU10K1-NEFを搭載したモデル。

 廉価版扱いのSound BLASTER Live! Valueとしては2世代目で、前作(CT4670)が上位モデル(CT4620)と異なる専用設計のDigital I/Oカード用端子を持っていたのに対しこちらは上位モデルと共通仕様に変更されており、更に2世代目のEMU10K1-EDFを搭載するCT4760同様に同軸モノラルMINIジャックによるSPDIF出力(注1)が装備されたのが目を引くが、こちらは各端子は各種の色の樹脂で成形されたカバーに収まり、各接点は下位モデル故か金メッキされていない。

 にもかかわらずこのモデルは歴代Live!の中でも特にアナログ周りのヒス/ホワイトノイズのレベルが低く、音質向上において接点の金メッキは本質的な問題ではない(注2)事が判る。

 このCT4830はLive!シリーズに最上位モデルとして追加された5.1ch出力対応モデルであるLive! 5.1初代(SB0060)と同時期の登場で、PCIバス対応のSound BLASTERシリーズとしては5V単電圧対応で設計された最終世代に当たる。

 Live! 5.1より導入が始まった3.3V動作への対応は、当時独自の3Dサウンド拡張機能で注目を集めていたAureal(注3)のVortexことAU88x0系チップが3.3/5V両対応でリファレンスカードの段階で複電圧対応として正しく実装されていたことへの対抗策であったのではないか、とも思える。もっとも、この時期つまり1999年頃から、3.3V PCIスロットのみ搭載する機種が大手PCベンダを中心にごく少数ながら出荷されるようになっており、いわゆるリテール販売だけではなく、OEM供給も大量に行っているCreativeとしては、その対応を急がねばならない状況にあったのも確かである。

 そのような状況下であったが、このCT4830は5V単電圧対応のまま出荷された。

 このあたりの事情は明確ではないのだが、既存チップの改良品を搭載するCT4830の方が開発が先行していた可能性は考えられ、仕様変更が間に合わず3.3V対応に乗り損ねたものと見られる。

 もっとも、ことカード上のアナログ出力については、この3.3V対応は決して良いものではなかったように思える。

 一般にこの種の複電圧対応はレギュレータを使用し、チップそのものは上下いずれかの単電圧動作を行う。だが、実はこのレギュレータが曲者で、昇圧するにせよ降圧するにせよ、いやそればかりか出力電圧と同程度の電圧を入力して素通しさせる際にさえ、何らかのノイズが乗ることは避けがたい。

 となると電解コンデンサを並べて電源の平滑化・ノイズ除去を図る必要があるが、いったん電源ラインに乗ったノイズを完全に除去するのは至難であり、昇圧後の部分に既存の回路をそのまま流用する場合には、確実に単電圧仕様のものよりも劣った結果しか得られない、ということになる。

 CT4620・4760と比較してこのCT4830の方が高音質となったのは、恐らくチップの製造プロセスのシュリンクや回路設計の最適化といった地道な改良の賜物であろう(注4)が、同じCodecを使用しかつチップの改良も進んだ以後の機種がこれに劣っていることを考えると、やはり電源の仕様変更が音質低下に及ぼした影響は大きかったのではなかろうか。

 実際、同時期設計のLive! 5.1(SB0060)ではYMF-74x系チップ搭載カードでは屈指の高音質設計で知られたAudio Cyclone SP410Dと同じSigmaTelのSTAC9708T(注5)をAC'97 Codecチップとして搭載しているのだが、ノイズ面では明らかにCT4830に劣りCT4760と同じ程度、との評価で、基板設計や実装コンデンサ等の品質についてはCT4830とSB0060ではそれ程差が無く、むしろ後者の方が良い部品を使用しているように見えることからすると、運用上は利便の大きな複電圧対応のもたらす音質面での弊害について色々考えずにはいられない(注6)。

 正直な所を言うと、筆者はCT4620・CT4760の悪印象からEMU10K1チップそのものについても非常に低い評価を与えていたのだが、このCT4830を見る限り、少なくともチップそのものの基本的な設計の良否については評価を改めねばならないと考えている。


 (注1):例によって48KHz固定である。

 (注2):実の所、下手に薄い金メッキをするより、むしろ耐摩耗性の高いロジウムメッキだけの方が長期使用時の耐久性で勝る、というのが筆者の正直な感想である。無論、ケーブルの抜き差しを頻繁に行わないのであれば薄い金メッキも害にはならないのだが・・・。

 (注3):後に連邦法Chapter 11を申請し倒産。その資産はCreativeに買収された。もっとも、開発スタッフの主要メンバーは当時XBOX用チップセットを開発していたnVIDIAへ移籍し、nForce2などのサウンド機能の開発に携わったらしい。

 (注4):少なくとも筆者がテストしたCT4620・4830はいずれも同じCodecを搭載しており、弁解の余地はない。

 (注5):本来は8ch出力対応。

 (注6):オンキョーがSE-150・200などで本来3.3V対応可能なはずのEnvy24系チップを搭載するにもかかわらず、かたくななまでに5V単電圧対応を貫いているのも、恐らくこの辺が原因であろう。ヒューレットパッカードのML115のように3.3V PCIスロットしか搭載しない機種が徐々に増えている昨今の情勢下では、5Vにのみ対応というのは悪い冗談のようなものなのだが、これも一つの見識か。


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