SC-98 III / I-O DATA

SC-98 IIIP / I-O DATA

SC-98 IIISB / I-O DATA


インターフェイス:SCSI-2 (50pin SE 10MB/s)

転送モード:DMA/FIFO/SMIT

Bus:C Bus (16bit)

コントローラ:WD33C93BJM / Western Digital + SMIT-98C / Work Bit

対応機種:PC-9800シリーズ

動作確認マシン:PC-9821As2/U8WPC-9821Xv13/W16


 1996年にWork Bitが満を持して送り出した、画期的なバスコントロール技術であるSMIT(Super Memory mapped I/o Transfer)をサポートするSMIT-98Cチップを搭載した、I-O DATAにとっては三世代目のCバス対応SCSIボードシリーズ。

 このシリーズにはバリエーションとしてSCSIコネクタがアンフェノールハーフピッチ50ピンコネクタのSC-98III、D-Subハーフピッチ50ピンコネクタに変更されたSC-98IIIP、それにSC-98III・IIIPそれぞれのセカンドバスドーターボード版であるSC-98IIISB・IIIPSBの計4種が存在する。

 これらは当時I-O DATAが提唱していた98セカンドバスType II規格に準拠しており、ベースボードの基板上に用意された増設コネクタとブラケットの開口部によってドーターボード方式の対応ボードが装着可能で、スロット消費を節約しつつ機能拡張が可能な設計になっている。

 但し、ベースボードはともかくドーターボードの方は種類も生産数も少なく(注1)、今の中古市場では殆ど見かける事さえ無い有様なので、この機能は実質的に有名無実化している。

 ちなみに、ベースボード(SC-98III・IIIP)もドーターボード(SC-98IIISB・IIIPSB)も回路構成はほぼ同一で、部品の背の高さに厳しい制限のあるドーターボードのコンデンサが背の低い表面実装タイプの物とされていて更にSCSIコネクタ直近の100μFのものが1つ省略された程度しか差異は見あたらず、SCSIインターフェイスとしての機能・性能も当然に全く同一であり、SC-98IIIあるいはSC-98IIIPとSC-98IIISBあるいはSC-98IIIPSBを組み合わせて使用する事は不可能(注2)である。


 このシリーズの最大のセールスポイントであるSMIT(Super Memory mapped I/o Transfer)はその正式名称が示す通り、通常I/Oポートを経由するI/Oデータ転送を敢えてメモリ空間(注3)に“窓”を設けてそこを経由してCPUとデータをやりとりするメモリマップドI/O転送とする事でバスマスタ転送を上回る速度を実現した、x86系CPUでは画期的な転送技術(注4)である。

 このメモリマップドI/O転送自体はモトローラのM68000系MPUなどでは古くから採用されていて随分枯れた技術ではあるのだが、それをCバスの16MB上限問題の解決に応用した点に、この技術の着眼点の良さがある。

 何より、データをやりとりするメモリ領域をアンダー16MB空間に固定して確保する為、バスマスタ転送の様にオーバー16MBとアンダー16MBで性能に差が出ないのは素晴らしい点で、この時期既に一般的なPCの実装メモリが32MBを超えつつあった事も合わせて考えると、チップ開発元のWork BitがWindowsマシンでの利用をかなり重視していた事が判る。

 もっとも、この時期までこの巧妙なアイディアの応用例が出なかったのには理由があって、このメモリマップドI/O転送は機構的に複雑である上にかなりのCPUパワーが要求される(注5)為、特にWindowsで実用的な速度を得るには最低でも486クラス、快適な利用にはPentiumクラスの高速CPUを搭載したマシンが必須となった為であった。

 理想を言えば、CバスをPCIバスブリッジの更に下ではなく、CPU(ローカル)バスの下に直接置いた(あるいはノースブリッジに直接Cバスコントローラを内蔵した)Pentiumマシンがこのボードの性能をフルに発揮するのに望ましいのだが、そんなマシンはほぼあり得ない(注6)から、世間に大量に出回ったこのチップを搭載したSCSIボード群はその殆どが真価を発揮する事無く終わっているという事になる。

 メーカー側の企図は、その98セカンドバスType II準拠という仕様も含めて、恐らくPCIバススロットを1本しか持たない為にグラフィックカードを優先する限り高速なPCI SCSIカードを挿す訳には行かない、デスクトップタイプのValueStarへの取り付けに主眼を置いていたと思われる(注7)が、486マシンであるAs2クラスでもCPU負荷さえ我慢出来るならば、それはそれで最速級の性能を得る事が叶うボードである。

 なお、筆者が実見したSC-98III及びSC-98IIIP(注8)にはいずれも内部50ピンSCSIコネクタの為のパターンが用意されているが、何故かこれはコネクタ未実装で終わっている。

 I-O DATAの製品には、何らかの拡張を企図した配線パターンを用意しておきながら、結局未実装状態で出荷された製品が幾つか存在するが、これについては内部SCSIコネクタを備えたCバスSCSIボードが製品として殆ど存在しない(注9)事を思うと、何とももったいない気がする。

 恐らくこのボードの場合、終端として220Ωの10ピン集合抵抗*2(ターミネーターパワーと接続)と330Ωの10ピン集合抵抗*2(GNDと接続)を組み合わせたシンプルなパッシブ抵抗を実装してあって、このターミネータ回路を何らかの方法で無効にしなければ内部/外部SCSI端子の同時使用が出来ない為に内部コネクタ実装を断念したものと思われるが、この辺の基板配線を追いかけてみると色々模索した跡が窺われるから、I-O DATA側もこの問題でかなり迷っていた様だ。

 この問題を解決する一番安易な方法は集合抵抗をソケットに挿しておいて必要な場合に抜き取る、という手だが、これは集合抵抗の破損やピンの順番を逆に挿す、あるいは抵抗値が逆の物を挿す、といったトラブルが多発するのが容易に予想できるから駄目で、次善の策としては基板上にターミネータ回路を用意せず、内部50ピンコネクタにターミネータを挿しておいて内部コネクタにケーブルを挿す場合にこれを抜く、という手があるが、これもこれらのボードが98セカンドバスType IIに準拠したベースボードである為に干渉が発生する可能性を考えると問題があり、これはやはりPCIバス対応SCSIカードの様にアクティブターミネータを組み込んで自動でターミネータのON/OFFを切り替えるようにしない限りは解決しないだろう。

 この辺は無改造で使用する分には全く関係の無い話だが、世代的にはかなり新しいSCSIボードであるにも関わらず、転送レートの低いSCSI-2対応であればパッシブで充分、という設計方針を採ったあたり同様の条件でも性能をギリギリまで引き出す為にアクティブターミネータを奢っていたMDC-926Rsとは対照的である。


 (注1):当然ながら既にI-O DATAはその全製品の製造販売を打ち切っている。

 (注2):BIOSの関係で不可能。当初WorkBitはSMIT転送対応SCSIボードの複数枚挿しのサポートを企図していたらしく、 各社のSMIT対応ボードには例外無く複数枚挿しの為のジャンパを実装してあったが、55互換BIOSの範囲でこれを実現する事は不可能であったのか、結局この機能は「無かった事」になっている。

 (注3):24bitアドレスしかサポートしないCバス経由なので、当然0〜16MBまでのメモリ空間という事になる。

 (注4):非サポートOSでの動作を考慮してか、FIFO/DMAの各転送方式にも対応している。

 (注5):通常のFIFO転送より負荷がやや大きい様で、ボード上の高速DMAコントローラが制御権を握る為に事実上CPU性能に全く依存しないバスマスタ転送に比べればCPUにかける負荷が相当大きい。

 (注6):例えばPC-9821Af・An・Bfがこの条件に該当するが、これらは残念ながら肝心のローカルバス-Cバスブリッジの性能が余り高くない為、真価を発揮出来るとは言い難い。

 (注7):それ故、という訳ではないがこのボードはPnP対応がメインで非PnP対応マシンでの利用は(CPU性能の制約もあって)殆ど考慮されていない事が伺える構成となっている。

 (注8):基板にはSC-983-1(SC-98III)・SC-983-3(SC-98III・IIIP)なる型番が記載されている。

 (注9):皆目存在しない、という訳ではないがメジャーな製品では事実上皆無である。ちなみにパターンだけ用意されている機種はSMITチップ搭載製品には結構ある。


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