PC-1300S

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 シャープのポケットコンピュータ第二弾、PC-1300のメモリ強化版です。まぁポケコンといってもPC-1300/Sの場合あまりに大きくて(後の「ポータブルコンピュータ」より大きいかも)、ポケットはポケットでもカバンのポケットでないと入らないような大きさなのですが…。写真ではあまりわかりませんかね。
 PC-1300/Sは高価だったことも手伝ってか、現在ネットを調べても保有していることを表明している人はわずかしかいません。その昔これを使って仕事をしていた人が今死蔵させているという例がきっとそれなりにあるのでしょうが、こういう小さなものが押入れや倉庫にあっても邪魔になりませんので、なかなか中古とかオークション市場に出てこないんですよねぇ。この機体の場合は、少しは紹介サイトが増えてないかとサーチした結果ビッダーズの出品ページがヒットしたため、入札して手に入れました。箱以外は全て揃っている良品でした。
 1970年代当時は、まだプログラミング言語としてBASICが広まっておらず、汎用機での科学技術計算にFORTRAN、事務計算にCOBOLが認知されてきた頃でした。実はデスクトップの計算機(商品名としてはパーソナルコンピュータだったのですが)としてシャープは「シャープミニフォートラン」なるプログラミング言語を採用したものを販売していました。PC-1300はそのパソコンの小型版という位置づけだったのではないかと思われます。もちろんPC-1200で先鞭をつけた「ポケットコンピュータ」の後継機種としての役割も担っていたことでしょう。
 ちなみに、シャープミニフォートランというとFORTRANの雰囲気を感じずにはいられないのですが、その実態はBASICに近く、FORTRANとは別物と考えたほうがいいでしょう。
 キーボード部です。雰囲気がPC-1200に似てますね。シャープのポケコンは関数電卓から発展したカシオのものとは違って、シフトキーを「F(ファンクションの頭文字)」とは表現しないものなのですが、この当時はまだ関数電卓からの脱却が図れてなくて「F」と表示されています。
 またアルファベットがひととおり入力できるようになったのですが、命令や関数はワンキーで入力することになっていて、そのためにキーに全てのキーワードが割り振られています。
 プログラムの一部を表示してみました。ドットマトリクス表示の蛍光管を使用しています。この当時としては珍しいでしょうか?
 行末の三角形はそのまま行末を表しています。式の表現が独特ですかね。"⇒"が代入を表していて、A/B/Dの結果をPに入れるということになっています。Aが暗くなっているのはここにカーソルがあって、点滅しているためです。
 このように文字表示可能なディスプレイを持つものの、PC-1300/Sは実質的にはプリンタ出力をメインとするマシンのようです。表示中に操作できる範囲が少なく、サンプルプログラムもプリンタに結果を残すようなものが大部分です。
 で、そのプリンタは上部に内蔵されていまして、なんと今となっては珍しい放電プリンタが採用されています。放電プリンタとは、その名の通り電気の放電によって紙を焦がすことで印字するプリンタで、専用紙が必要なことから近年では製品が作られなくなってしまいました。当時は安価・高速ということでたくさん製品があったんですけどねぇ。

 あと、プリンタの左に"ELSI MATE"の文字が見えます。まだポケコンいちジャンルとして確立しておらず、関数電卓の派生品であったことの表れですね。
 プリンタのカバーをとったところ。溝の中に見える白いのが印字ヘッドです。
 印字中…ってあまり雰囲気出てませんが。印字の度に印字する内容が蛍光管に表示されて(プログラムリスト出力でも同様)、それが消えてヘッドが動くという具合に一行ずつ印字されます。放電プリンタの名のごとく、ヘッドが走るたびに火花が散ります。その様子を写真に撮りたかったのですが、ヘッドの走行スピードが速くてなかなかうまくいきませんでした。
 印字はヘッドの走行音しか聞こえず、火花が散るからといってパチパチとか音を立てることはありません。印字速度も今のインクジェットプリンタには及ばないもののなかなか速いです。
 印字結果(リスト出力を途中で止めて繰り返してるので、内容は適当)。この写真で見ると白地に見えますがやっぱり銀で、これをそのまま使うのはちょっと辛いです。でも昔は雑誌などでも投稿されたプログラムリストを掲載するのにそのまま使用していたこともあります。地の色(銀色が灰色になって印刷)と字のトーン差が少なくて読みにくい誌面になっていましたが。
 PC-1200ではプログラムやデータの保存手段がありませんでしたが、PC-1300/Sではプラスチック製の磁気カードに記録ができるようになりました。これがその磁気カード。上が表で、下が裏。両端に矢印が見えますが、両方向に使用することができます。
 で、その磁気カードの使い方。記録または読み込みできる状態になったら、一旦カードを奥まで差し込みます(写真上)。そこから、手でゆっくりと引き抜きます。遅すぎても、速すぎてもダメ。なんともアナログなデバイスですが、携帯性には優れていますので、現場(ってどこ?)で使用するには便利かと。
 そうそう、PC-1300/Sの電源はACアダプタか充電式電池の二電源ですが、プログラムや変数の記憶を保持する機能はないので、電源を入れるたびこのような操作を行って準備する必要があります。
 使用中のプログラムが格納されているカードは、表示部上に収納しておきます。ここはただのホルダなので入れなくてもいいんですが、プログラム名やごく簡単な使い方をカードに書いておけますので、ここに差し込んでおくと便利なわけです。
 A,B,C,X,Yと枠があるのはDEFモードでのプログラム中のラベル説明用で、この5つに関してはキーボードにも青いキーで特別に用意されています。この文字のラベルの箇所をダイレクトに呼び出せる機能がありますので、呼び出すとどうなるか(狭いですけど)書いておけば一種のヘルプになるわけですね。
 カードはこのようなケースに収納できます。黄色いところに黒い帯がありますが、これが細い帯の集まりで、これを磁気カードに貼ることでライトプロテクトすることができます。
 1982年の電卓とパソコンの総合カタログを見ると在庫僅少ながらまだ掲載されていたので、かなり長い間売っていたみたいですね。これ自体の後継機種が登場せずPC-1300番台の型番も時間を経てから全く違う機種に適用されたことから、「これしか使えない」人のための救済措置かとも考えられますが、それよりはきっとあまり売れなかったのかもしれませんね…。

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