MZ-80K

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 ここには長いこと丸善の「Z80マイクロコンピュータ」という本の後ろの方にでてきた「各社のZ80マイクロコンピュータシステム」という項から引用した写真を掲載してきましたが、過日非常に貴重と思われる「最初期のパンフレット」を入手したことから、その鮮明な写真に差し替えました。

 そのパンフレットをつらつら眺めているうち、試作機に関するいくつかの事実らしきことがらが浮かんできたのです。ここではその「試作機」に関して、限られた情報から最大限読み取ってみたいと思います。

目 次

パンフレットから読み取る、プロトタイプの考察

 まずは、パンフレットを見ていただきましょう。それぞれクリックすると拡大したものがご覧になれます。

 さて、最後のページを見ると「昭和53年9月作成」とあります。MZ-80Kの最初の出荷が1978年(昭和53年)12月ですから、その4ヶ月前。最初の一般へのお披露目となったエレクトロニクスショーが10月6日〜11日に東京で開催されていますから、その前月ということになります。このパンフレット自体は秋葉原にあったマイコンショップで配られていたものですが、作成時期からしてエレショーで配布されたと思われるものと同じと考えて良さそうです。

 メインで写っているマシンがプロトタイプであることからも、このパンフには最終製品となるまでの暫定的な仕様がいろいろと掲載されていることが予想されます。そして、試作段階では計画されていながらキャンセルされたこと、その後追加されたことなどいろいろ読み取れるものがあるのです。

 まずは、この時期にすでに決まっていて製品にもそのまま引き継がれたもの。

 といっても、細かいところではいろいろ修正が入っています。ASCII98年6月号の「国産銘機列伝」特集内の中西馨氏のインタビューにあるように、前面右手前の四角いものは電源スイッチであり、「押しやすいところに置いてはいけない」との指摘に基づき製品では背面に移動しています。BASICの仕様では「ON…LOAD」などという妙ちくりんなコマンドが書いてあったりとか。Z80の採用も、仕様からどうにか読み取れるだけであってクロック周波数とかも書いてありません。誤植もいろいろあるので文面だけを全面的に信用してはならないのかもしれませんが…。

 次に、発売後のMZにはあるのにパンフにはないもの、あるいはパンフにはあるけど最終的にはなくなったり使われなくなったりしているもの。一つずつ解説つきで。

 中西馨氏が記事にてコメントしていたのですが、クリーン設計というのは当初からの設計方針ではなく、TK-80のようにバージョンアップやバグ修正でROMを交換する方法ではコストがかかりすぎるので、テープ読み込みという苦肉の策をとったということでした。

 ミニコンの時代なら、BASICのような巨大システムはテープ(と言っても紙テープだったりすることもある)からロードすることは当たり前でした。パネルのスイッチを操作して打ち込むブートローダをソラで覚えていたなんていう武勇伝も当時のミニコン使いの人の思い出話としてよく聞かれたりしますね。「誰も書けなかったパソコンの裏事情」(宮永好道著・並木書房刊)ではワンボードマイコンの時代でもBASICをロードすることが当然だったと読める記述があります。

 MITSのAltair8800も世界初のパソコンと称されたりしますが、あの形態は完全にミニコンですし、ビル・ゲイツとポール・アレンの開発したBASICも紙テープで供給されたのです。

 しかしMZを開発していた当時に存在したTK-80BSや、Apple][・PET2001・TRS-80などという米国製品でもBASICをROMに持っていたわけで、常識は既にそのように変化していました。それらを手本にMZ-80Kを開発していたのなら、当初は他の製品と同様にROM BASIC搭載で検討したり試作したりしていて不思議はありません。

 2ページ目の分解写真…もとい、キット構成写真(実は筐体下回りがごっそり抜けてるけど)にあるCPUボード、何か様子が変です。拡大して真四角になるよう変形してみたのが次の写真。まぁ無理矢理なのでコンデンサとか斜めに長くなったりしてるのはご愛敬ということで。

 引き伸ばした都合で部分的には長さが違うようにも見えますが、使われているICの種類と数を考えるとほぼ同じ大きさだと思われます。あと、拡張バスコネクタの形状も違いますね。試作基板はカードエッジに見えます。

 しかし、やけにROMが多いと思いませんか。右のカラー写真がMZ-80Kの初期基板と呼ばれるもので、後期基板よりもROMが多いのが特徴(白いLSIパッケージで、黒いラベルがあるのがROM)。なのに、プロトタイプ基板はそれ以上に多いように見えます。

 ROMの容量が違う?モニタROMは4KBでしたから、それを16分割するとひとつあたり256バイトしかないことになっちゃいますが、いくら黎明期とはいえそんな容量のROMが使われるような時代ではないですよ(UV-EPROMにそんなサイズのはないよね)。それに、CG-ROMはちゃんと2個構成になっているみたいですから、初期基板と同じ容量のもの(2708相当)を使っていることになります。とすると、16個のROMで16KB…?

 ここで鍵になるのが、「12K BASIC」と「クリーン設計を宣伝していない」ということ。つまりこのCPUボードを作った時点ではBASICはROMに収められていたのではないか、というわけです。モニタ4KB+BASIC 12KBで、ちょうど16KBになるじゃないですか。

 DRAMと思しき列は8個のものが2列あります。これは製品版と比べると1列足りない。つまり当時のリーズナブルな製品構成から考えると16KB+16KBの計32KBしかボード上に搭載できないことになります。残り16KBは拡張I/Oボックスの中ですか?しかしこれらの数値から考えられるメモリマップからすると…。


モニタROM($0000-$0FFF)
 

BASIC ROM($1000-$3FFF)
 

メインRAM($4000-$BFFF)
 

空き?($C000-$CFFF)
 

VRAM($D000-$DFFF)
 

I/O($E000-$EFFF)
 

FD ROM?($F000-$FFFF)
 

ということになります。フロッピーのサポートは謳われていますが製品のようにI/Fボード上のROMがマッピングされるかどうかは不明。PC-8001なんかのようにBASIC ROMにフロッピーが存在するなら拡張コードを読み出すというコードが仕込まれている可能性もありますし。

 仕様表からすると標準24KB・最大44KBとありますが、いずれにしてもDRAM2列では中途半端な容量です。ここで4KBはVRAMであると考えれば(というかVRAMがいくらあるか書いてない。1000文字表示だってMZ-700のように表示に使えない1KBの存在を考えれば表示能力をそのまま書いただけと解釈可能)、標準20KB・最大40KB。標準の場合は16KB+4KBで、最大の場合は…16KB+16KB+4KB+4KBか。その4KB+4KBは上記メモリマップの$C000-と$F000-の分と考えれば搭載位置の問題を除いてつじつまが合います。なお、入手したパンフではRAM容量が赤ボールペンで製品版と同じ数字に修正されていました。もちろん誰が書いたのかは不明。

 ここで、パンフ1ページ目の画面に注目してみます。後でも触れる書籍「マイコン読本」に、同じ画面を正面から捉えたものがありましたので、それを見てみましょう。

 もちろん、試作機の出すメッセージをどこまで正直に書くか、宣伝のことを考えると体裁をまとめたくなるのは人情ですから、書かれなかった行とかメッセージがあることは考慮に入れるべきです。しかしあり得なくもないのも事実。

 じゃ仕様表のRAMの数値は何なんだ?ということになりますが、これはクリーン設計に切り替えた後のもので、写真が一通りROM BASIC時代のもの…と考えるとどうでしょうか。文章は活字の並べ替えだけで対応できますが、写真は撮り直して版を作って…と手間がかかるのでもう修正しないことにした、と。表中、「12K BASIC」がROMではなくRAMの欄にあり、ROMはオペレーティングシステム(モニタとある意味同義)と書かれていることからしても、クリーン設計を意味していると捉えてよいのではないかと。

 写真がROM BASIC時代のものとして、最終的にその仕様では発売されなかったにもかかわらず、パンフにふさわしいきれいな写真であることも気になります。まるで最初からその仕様で商品化することが決まっていたかのような…。いや、中西馨氏のコメントではうかがい知れませんが、クリーン設計に切り替えたのはかなりギリギリだったのではないでしょうか? ROM BASIC仕様で商品化するよう進められていたからこそ、その時代の写真が撮影されていたのではないか、と…。

 パンフ制作時にはすでにクリーン設計だったとすれば、エレショーに持ち込んだ機体は中身がROM BASIC仕様でなかった可能性もあります。もちろんデモを流しているだけなら中身は何であろうと判別つきませんが…。なお中西氏のコメントではエレショーに試作機を作って持ち込んだと表現されているので、この時点では試作機しかなかったと考えるのが妥当でしょう。

 余談ですが、そのエレショーの様子について電波新聞社版「MZ-80活用研究」の前書きにちょっとだけ記述があります(原文ママ)。

 シャープ(株)MZ80Kの基本タイプが一般にお目見えしたのは昭和53年秋のエレクトロニクスショウの会場でした。グレイのケースに収まった"マイコン博士MZ80"(当時の名称)は外観的には現在のMZシリーズと同じ,ただキーボードの右に大きな電源スイッチが付いていました。
 スタートレック・ゲームを実演していたこの「マイコン」はCPUにZ80を使用,BASIC言語の使える本格的ホビーコンピュータという形で紹介されました。

 電源スイッチがキーボードの右にあるということは間違いなく試作品ですね。これまで白黒写真でしか見たことがありませんが、ケースの色が「グレイ」だということは写真そのままのイメージで想像すれば良さそうです。

 余談ついでに、前書きの続きはこうなっていまして…。

 同じ昭和53年の年末,第一回の出荷がありました。ごくわずかの試験的なものだったようですがユーザー,販売店の間で爆発的な話題を生み,全国からシャープ本社,サービスセンター,電気店にまで購入問い合わせが殺到してしまったのです。シャープ東京サービスセンターの当時の話しでは,昔,白黒テレビ普及期にその台数の急速な拡大に影響をあたえたのが昭和34年の皇太子様のご成婚だった,そうです。マイコンMZ80Kに対する各地の販売店からの注文,催足は,あたかもあの時の状態が再現されたかのようなすさまじさであったということです。

 上記のパンフが販売店でも配られていたということは、エレショーを見に行かずともシャープがマイコン製品を新発売するということを知った人がそれなりにいたと推察できます。ボーナスを握りしめてその発売を今か今かと待ち構えていたところが、1978年12月28日・仕事納めの日に出荷した数がわずか80台強では例え予約をしていたとしてもその期待に応えることなど到底不可能で…。

 冬休み期間中に発売開始を知った人達は、入荷の見込みのありそうな販売店に予約し、あるいはメーカーやサポート拠点(本来の営業部隊は使えないと思い、サポート部門に営業を委託した。前書きにてサービスセンターの名前が挙がっているのはそのため)に次の出荷日を問い合わせ…あまりの反応にシャープは新年早々増産体制を組むことに…。


製品の名前

 今では当たり前に「パーソナルコンピュータ」と呼ばれ、製品にもそのように銘打たれたMZ-80Kですが、少なくとも試作品の当時はちょっと事情が異なっていたようです。

 MZ-80K発売直後に発行された書籍「マイコン読本」(佐々木正監修、エレクトロニクスダイジェスト発行)には、上記パンフレットのものとは違う角度で最も大きい試作品の写真が掲載されているのですが、シャープのロゴのそばには変わった名称が刻印されています。

 そう、PERSONAL COMPUTERではなく、HOBBY COMPUTERと書かれているのです。PETとかTRS-80とか、先行する製品はすでにPERSONALと書いてあったはずなのに。

 深読みするといろいろ考えられるのですが、パーソナルコンピュータというのを一般名称として捉えていなかっただけかもしれませんし、MZ-40Kと用途的に大差ない(=おもちゃ)と考えていたからかもしれません。「マイコン読本」はおそらくMZ関連書籍としては最初に発売された本で、AKIBA PC Hotline!の「ボクたちが愛した、想い出のレトロパソコン・マイコンたちMZ-80K編を見るとMZの発売前には既にこの本も発売を予告する広告がI/O誌に掲載されていることがわかりますから、企画もずっと前だったのでしょう。監修者の佐々木氏はシャープの電卓開発のトップで、多数のMZ-80K開発関係者が執筆に参加しており、さらにイラストはマニュアルと同様緒方健二・水谷たけ子の両人が担当しています。つまりは、販促本というわけですね。

 それだけに、試作機開発当時の社内事情がちらりと顔をのぞかせている記述もあります。なんと、ホビーとパーソナルのどちらを選択するか悩んでいるのではなくて、そもそも家庭用ということで「ホームコンピュータ」と呼んでいたらしいのです。これはあるコラム記事の引用です。

 今私達が話をしているホームコンピュータに、同じ意味らしいパーソナルコンピュータという言葉が現れて、この二つの意味の相違が問題になっています。
 関係者の間でいろいろと話合ってみますといろいろの解釈があるようですが、広義のホームコンピュータとしてパーソナルコンピュータがあり、これが二つのホームコンピュータに分かれ、一つはホビー用(趣味用として使えるゲームとか教育機器のようなもの)であり、他は職業用のホームコンピュータになるという意見がいちばん有力のようです。
 一説には入出力が一体となっているものがホームコンピュータで、入出力を多く付加できるものがパーソナルコンピュータだという人もいますが、いずれこれらの定義ははっきりさせなくてはならないと思います。

 「問題になって」いるそうです。そんなに細かいことをこだわっても仕方ないと思いますが…なんと呼ぶかで、広告戦略とか販売チャンネルとか変わったのかもしれませんけど、少なくとも製品として発売する前にホビー→パーソナルという呼称の転換があったことは間違いありません。後年の他メーカーを見ても、ポケットとかハンドヘルドとかラップトップとか形状に関する名称はあっても、用途に関してバリエーションはありませんでしたから、この決定は正しかったと言えるでしょう。


量産版パンフレットのプロトタイプ

 MZ-80Kが製品として発売された時のパンフレットにも、試作品の面影が残っています。

 裏表紙というか、最後のページにてセミキットであることをイメージさせる構成写真がありますが、これは試作品の写真を流用したものだと思われます。もちろんデータレコーダ部のデザインや前面側の電源スイッチが削除されているなど製品仕様になっている部分もありますが、だいいち基板が試作品そのままですし、英数/カナLED近辺のデザインはやっぱり違います。

 考えるに、この写真は試作機の写真を修正したものではないでしょうか。キーボードのフラットケーブルなんか試作機の写真と全く同じですしね。いかにも新規に撮りましたという雰囲気を出してはいますが…。

 それを差し引いても、試作機のパンフと比較して垢抜けた印象があります。広告は社外のデザイン会社に依頼していたそうなのですが、おそらくMZに関してはこのパンフからそうするようになったのでしょう。試作機の、スペック表だけのような内容はいかにも技術者が書いたような感じですけど、このスペックを写真の周りに配するスタイルは、カラーでないことを除けば普通に今店頭で手にするパンフと変わりませんね。


 なんとラッキーなことにMZ-80Kの箱が手に入りました。白黒写真でしか見たことなかったので、こんなに鮮やかなものだとは想像つきませんでした。

 他人のことを偉そうに言えませんがパソコンを含め家電製品って常用すると梱包されていた箱を保管する理由が乏しくなり、場所ばっかり取って邪魔なので処分せざるを得なくなるんですよね。この箱がよく残っていたものです…。

 
正面   側面

 BASICのリストがMZ-80Kのシルエットをバックに並んでいますが、これはスタートレック・ゲームのリストの一部ですね。デザイン目的なので同じ行が何回も繰り返されていたり、中途半端に途切れた行も散見されますが、主にBASICインタプリタを使ってプログラミングするというパソコンのイメージを表したものなのでしょう。

 それと箱のフタがですね、普通の形じゃないんですけど…。

 手提げできるように、把手が組立てられる構造になっています。

 いやでもですね、MZ-80Kって13kgあるんですけど…まぁ多分、日本橋や秋葉原などから手提げして電車で帰ったとかいう人、ほとんどいないよね…購入する前に手提げできる箱だとかいう情報も得られなければ業者に配達してもらうわな…。

 さらに内箱があって、MZ-80Kはその内箱を取り出さないとお目にかかれません。

残念ながら内箱や緩衝材は失われているので、そこまで再現してみせることができません。

 外箱の外形サイズは600(W)×265(D)×510(H)mm 、段ボールの厚さとか、さらに内箱があるわけですから内寸はかなり狭まります。MZ-80Kの高さは270mmでしたから、明らかにそのままではこの箱に入りませんね。

 なぜ収まっていたかと言えば、MZ-80Kはセミキットだったからですよね。組立てマニュアルを兼ねるBASICマニュアルに、パーツ一覧の写真や収納状態を示す図があります。

A CPUボード
B キースイッチ基板
C キースイッチ・キーカバー
D 電源ユニット
E ディスプレイユニット
F カセットテープ
G カセットユニット
H ビスなど
I ジャンパー線・糸ハンダ

 キャビネット(写真のキャビA・キャビB)は収納図にはなく、発泡スチロールのフタとかに収納場所があったのではないかと思います。

 組立てる前提で各パーツをバラバラにしてあるのに最適化した箱は、組み立て後に元の箱に収納できなくなってしまう運命にあります。完成品だったMZ-80C以降の製品なら、使わなくなった後は箱に入れて押し入れの隅にでもしまい込むことで箱ごと残る確率も上がるのですが、MZ-80Kではそうはいきません。それだけに、なおのことこの箱がよく残っていたもんだと感心してしまいます。


MZ-80Kによくある誤解

 MZ-40Kのページにて「よくある誤解」の項を書いた時、よく考えたらこれはMZ-80Kに関係した誤解だな…と思い直して書かなかった内容がありました。また最近出版された書籍を読んで相変わらずな誤解が幅を利かせていることを再認識しました。

 そういうわけなので、こちらのページにも誤解を解くための解説を少々載せておくことにしました。せっかくのこの機会に、正しい認識に改めていただければ幸いです。

 「Microcomputer Z-80」の略だからMZ-80…と連想してしまうところですが、全く違います。そもそもMZという型番はMZ-40Kの時に選定し、MZ-40Kを開発した時は8bitパソコンを作る計画など影も形もありませんでした。8bitパソコンを開発しようとした時も8080を使おうとしていたぐらいで、単に8bitマイコンの製品だから40の代わりに80としよう…と考えただけの話です。
 そんなの信じろと言われてもあり得ないと思う気持ちも大変よくわかるのですが、まさに「事実は小説よりも奇なり」という話で、信じていただくしかないのです…。
 ワンボードマイコン・SM-B-80Tはプロ向けであるとして除外すれば、MZ-80Kはシャープとして初めての一般向けのZ80採用製品です。せっかくザイログから取得したセカンドソースライセンスを活用し、Z80CPUと関連製品を使ってもらうにはLSI単品が売れるのを待つばかりではなく、Z80を組み込んだ自社製品を売ることも考えなければいけません。
…というような開発の動機があったのではないかとつい想像してしまうのですが、実際には少し違います。
 こういう想像をしてしまう最大の原因は、MZ-80Kを開発した「部品事業部」という部署名にあるんじゃないかと思っています。何も事前の情報がない状態で「部品事業部」などという部署名を見た時、そこはどんな業務をするところだと思いますか?
 部品を作って売る事業部? 違います。部品を買って工場での量産に使ってもらう事業部です。今だと普通は「調達」とか「購買」とか呼ばれているであろう部門に相当します。そう、部品事業部はZ80を作っている部門ではないのです。
 部品事業部は半導体部門ではなく、むしろテレビ部門の関連部署です。MZ-80Kは彼らが抱える収益上の問題を改善するために開発・商品化されました。だから当初はCPUに8080を採用するつもりだったし、Z80の販促など頭にはなかったのです。
 それがなぜZ80を使うよう方針転換されたのか? それは半導体部門からZ80の売り込みがあったからです。「電卓事業部に持って行ったら『こんなものは使えない』と門前払いされた。ぜひそちらの部署で使ってほしい」というので試しに使ってみたところ、演算パラメータをレジスタ渡しにすることができたので性能向上したのだそうです。それで採用を決定したのだとか。
 売り込みに来た半導体部門としては販促の一環とも言えるでしょうが、MZ-80Kを主体に考えるならそれは販促ではない…ということになりますね。
 ラトルズ刊「ザイログZ80伝説」にて紹介された、MZ-80KにZ80PIOとZ80CTCが使われていない理由です。
 しかし手元にある昭和53(1978)年6月付けのシャープのカタログ「マイクロコンピュータ関連製品一覧表」にはすでにCPU/DMA/CTC/PIO/SIOが製品としてラインナップされており(Aバージョンの記述はない)、さらに掲載されているワンボードマイコン製品であるSM-B-80DではPIOもCTCも搭載されているので、MZ-80Kを開発する時点でCPUしかなかったなどということはあり得ません。
 Z80ファミリを使わず8080ファミリである8255と8253を使うことにした理由は定かではありませんが、当初の設計が8080を使う予定だったことに関係しているのではないかと考えています。つまりCPUをZ80に変えることは決めたものの、そのまま動くということもあるし、他は変えないことにした…というわけです。
 変えなかった理由としてひとつ推測されるのは、価格の問題です。周辺LSIを生産はしていたもののまだ価格がこなれていなかったため、CPUは採用しても他は見送ったというのはあり得そうです。
 推測される理由としてもうひとつ、8255からZ80PIOに変更するとI/O数が8bit減ってしまうというのも考えられます。8255のポートCは制御信号としても使えるものですがMZ-80Kでは単なる汎用I/Oなので、8bit分を他の回路で補うのは面倒な話です。I/Oの多さは8255が愛される最大の理由じゃないかと思うのですが、それはMZ-80B/2000になっても使い続けられていることからも想像できると思います。
 なおザイログZ80伝説の本文では「Z80を主流に押し上げた」のはMZ-80KではなくMZ-80Cとあるんですが、パソコンの定義を完成品としているため同じアーキテクチャであるはずのMZ-80Kをわざわざ無視してるんですよね。メジャーになった要因を示す文章なんですからパソコンの定義を優先してより多数が売れたと思われるマシンを除外するのは矛盾していませんかね?
 WikipediaMZ (コンピュータ)のページには「これらとは別に、MZ-80Tというワンボードトレーニングマイコンも用意されていた」という記述があります。昔、これについてノートにておかしいと指摘したところ「SM-B-80Tの箱にMZ-80Tと書かれていた」との反論があり、編集を見送ったことがありました。
 それから15年以上、カラーになる前のSM-B-80Tの箱を探したり、関係者に話を聞いたり当時の雑誌を見てみたりなどしましたが、どこにもMZ-80Tなる商品の存在を確認することはできていません。
 SM-B-80Tを販売促進のためにMZ-80Tという別名をつけて売った、などという説は間違いであると断定して良いと思います。
 例えばパンフレット/カタログ。上でも触れた昭和53年6月のカタログはSM-B-80T発売開始時点なのでなくても当然として、昭和54年5月の単体カタログ、昭和55年9月のSM-B-80T/GTのカタログにもMZ-80Tなどという表記はありません。もし愛称みたいに別名があったとするなら当然それも書いてあるはずですよね。「MZ-80Tとして買ったオレのボードにはグラフィックターミナルは接続できないのか?」とユーザーを惑わせることになってしまいます。
 またSM-B-80TとMZ-80Kを取り扱う部署は別です。部署間で型番を共有するようなことは希だと思われます。かつて電卓で使われたQT型番が後にラジカセに使われたという事例もあるにはありますが、以前使ってた部門で今は全く使われていないことを確認した上での流用だと思われ、現役で使用中の型番の場合は無理でしょう。でなければ、サービス部門で混乱が発生してしまいます。
 何より、半導体応用事業部が販促までしてSM-B-80Tを売らないといけない理由がありません。ついつい忘れてしまいがちになりますが、TK-80をはじめとするワンボードマイコンは(MZ-40KやKX-33などの少数を除き)本来プロ向けに売っているものです。TK-80が圧倒的多数のアマチュアに売れたことからNEC以外のワンボードマイコンもアマが使うことに何の疑問も持たなくなってしまいましたけど、そもそもが想定されていた姿ではなく、発売した部門としては手に余る状況だったと言えるでしょう。
 それでこの上アマチュアにワンボードマイコンを売ってどうするのか、という話です。まぁ一部のショップはまだもう少しワンボードマイコンが売れるだろうと見込んで純粋Z80ワンボードであるSM-B-80Tを仕入れて雑誌広告に載せてたりしましたけれど。日立や東芝に比べてシャープはほとんどメーカーとしての広告を雑誌に掲載していませんでしたし、そもそもは積極的に売ろうとする姿勢が感じられなかったのですよね。なお後継製品としてSM-B-80TEというものを売り出してますので、SM-B-80Tの在庫処分を狙った…という可能性も否定できます。何か特別な新機能とか存在しないんですから、旧製品を買っても損するわけではないんです。
 つまりは"MZ-80T"なんてのは勘違いだろうということなんですが、ではなんでそんな勘違いが発生したのかと考えると…やはりあのステンシル文字が原因なのではないかと。特に"-80"の部分はSM-B-80TにもMZ-80Kにも含まれますので、確認したくてもブツがない状態では記憶に頼るしかなく、そのイメージには同じ形の文字があったとなれば勘違いもやむなしかと…。
 じゃあ自分でWikipediaのページを修正しなさいよ、と思われるところなのでしょうが…証拠に基づかない勘違いを強硬に主張し、それをもって間違いだと言い切るのは危険と唱える人相手では編集合戦になるのは目に見えてますので、もう放置することにした…というわけなのです。こっちで勝手にエビデンスを示しながらWikipedia以上の情報を提供していけばいいじゃないか、と。何年か前から私のページを見てWikipediaに反映してくださる奇特な方がいらっしゃるみたいで(ありがたや)、私がわざわざ出張っていく必要もないんですよね。

BASICマニュアルについて

 MZ-80Kには、後に言う「BASICマニュアル」しか添付されません。完成品であるMZ-80K2/Cになってから、BASICマニュアルとは別に取扱説明書というものが添付されるようになるのであって、MZ-80KではBASICマニュアルが取扱説明書の役割も担っています。ですので後のBASICマニュアルにはない「保証とアフターサービス」とか、セミキット構成だったのでその組み立て手順などが記載されているのですけど、本編のBASIC解説の部分も後のもとの比べるといろいろと変更されているのです。

 BASICマニュアルの成り立ちなどは同人誌「MZ ENCYCLOPEDIA Vol.10」に書いた記事「「MZ-80 SERIES BASIC解説」のひみつ」に譲るとして、ここではMZ-2000などに添付された最終版と比較してみます。なおSP-5020が標準添付されていた時代のMZ-80Cでは、SP-5001との差分について取扱説明書にて解説したうえでMZ-80Kのマニュアルを添付し、SP-5030の時代に取扱説明書とBASICマニュアルを改版して対応していたようです。

●MZ-80K固有の情報

 BASICマニュアルが取扱説明書を兼ねていたことによる、MZ-80K版ならではの内容。

ページ 項目 MZ-80K版 最終版
表紙   MZ-80Kの形名と、写真がある
(マシンランゲージやシステムプログラムの表紙と同じ)
「MZ-80 SERIES」
写真はなし(インタープリタPASCALの表紙と同じ)
1 はじめに 組み立てに関する注意、MZ-80Kの写真 BASIC解説であることの説明、MZのイラスト
10 さあ、ぼくと握手しよう MZ-80K誕生の宣言文のようなもの なし
125 RAM拡張方法 RAM実装容量に従って変更する、ジャンパ設定の説明 取扱説明書に移動
126 出力端子の説明 背面の端子配列の説明 取扱説明書に移動?
138〜
144
組み立て上のご注意 組み立てにあたっての注意事項と、組み立て方の説明 なし
145 セミキット構成 分解図と組み立て完成図を写真で説明 なし
146〜
147
使用上のご注意 電化製品に一般的な注意事項 取扱説明書に移動
148 保証とアフターサービス 保証事項の説明、仕様表 取扱説明書に移動

●表現の変更

 一部のセリフが大阪弁を使っていたことなどに対する変更内容。

ページ 項目 MZ-80K版 最終版
30 コンマとセミコロンの大研究 イラストのセリフ
「話はチャウけどあのオッサンこれだけしか呉れへんのや…」
「ケチなオッサン これしか呉れなかった」
31 コロンだほうがいいこともある イラストのセリフ
「わて、コロンや。そやから、ナンボ隣に住んでたかて、
赤の他人なんやで…」
「わてセミコロン ぴったりくっつくのや…」
「おれはコロンだ。隣に住んでいても赤の他人扱いだぜ…」
「おれはセミコロン ぴったしくっつけるぜ…」
イラストのセリフ
「あとナンボ残ってるんや?」
「残りはどれだけある?」
67 ストリング変数にも配列がある 「簡単なプログラムを作ってみました。ちょっとみてください。」 「ちょっとみてください。」を削除
71 九九の計算表はいかが 「あなたの子供さんはもう九九はできますか。
なんでしたらコンピュータが手助けしましょう。
九九の計算表を作ってみますから必要なときは使ってください。」
「あなたの子供さんはもう九九はできますか。
えっ、子供がいるほど歳とっちゃいないって?
いずれ将来必要になったときは使ってください。」
2次元配列によって2重のFOR〜NEXTループを伴うことが
多くなることを指摘し、行列と同義であることを説明
九九表に2次元配列変数が不要であることを
断りながら、一旦代入しておけば以後は計算が
不要になることを指摘。
ストリング変数にも2次元配列が使えることを追記。
72〜
73
大きな数と小さな数
小さな数と大きな数
太郎のセリフが大阪弁 太郎のセリフが標準語
話の流れも若干違う
93 応用問題をふたつ 「さよか…ホなら度にπ/180をかけてやればいいんや」 「左様か…しからば度にπ/180をかけてやるわい」

●BASICのバージョンアップに伴う変更

 MZ-80K版がSP-5001、最終版がSP-5030をベースにしていることからくる違い。

ページ 項目 MZ-80K版 最終版
2   「本書作成はモニターSP-1001、BASIC SP-5001に
もとづいております。」
「本書作成はモニターSP-1002、BASIC SP-5030に
もとづいております。」
15 黄色いキーは 魔術師   カーソル移動についてオートリピートがあることを追記
BREAKキーにプログラム中断機能があることを追記
50   「TAB( )は多芸多才」として
TAB()関数
SPC()関数
を説明
「PRINT文をたすける三銃士」として
CURSOR命令
TAB()関数
SPC()関数
を説明、イラストを一部すげ替えて本文をほぼ書き直し
60 単利と複利でどうちがう? 実行結果の最後の行の値が
836.3
実行結果の最後の行の値が
836.29999
108〜
116
  「BASIC命令のまとめ」 「BASIC命令のまとめ SP-5030」

●バグフィックス

 数少ないが掲載するサンプルプログラムを全て正しく動作させようとする修正。

ページ 項目 MZ-80K版 最終版
94 名簿を作るひとにそっと教えたい…… SP-5001では動作しないプログラムリストが
掲載されている(そのように注釈されている)
SP-5030で動作するよう、142〜148行を追加
リスト増大で紙面が圧迫されたのでイラストを縮小
(もちろん注釈は削除)
99 音楽史の丸暗記術 データ形式を変えた後、読み出しプログラムの
修正は230行のみ
データ形式を変えた後、読み出しプログラムの
修正は200,230,240行
(修正もれを追記)

●その他

 雑多な修正。MZ-80K固有のマニュアルでなくなったことによる修正が多い。

ページ 項目 MZ-80K版 最終版
3 中表紙 タイトル上「MZ-80K」 「MZ-80 SERIES」
文章中
「MZ-80K」
「シャープオリジナルのこのマーク」
「MZ-80クリーンコンピュータ」
「シャープオリジナルのアルゴ船のマーク」
9   「あなたへこっそり伝えたいこと」
模様が文章を取り巻いている
宇宙船のコックピットのイラスト
10   「さあ、ぼくと握手しよう」 「あなたへこっそり伝えたいこと」
模様ではなく、イラストが文章を取り巻いている
120 ディスプレイコード 一部明記されていない文字がある 全て明記
VRAMに書き込むと表示される文字であることを説明
121 特殊文字コードとメモリーマップ 特殊文字コードの説明文
「MZ-80K」
「MZ-80シリーズ」
メモリーマップ
RAMが標準装備である前提でのエリア分割図
RAMを最大に搭載した場合のエリア分割図
122   「機械語とのリンク」 「アスキーコード表」
全て明記
123   「テレビ画面の構成と特殊な制御命令」 「機械語とのリンク」
124   「アスキーコード表」
一部明記されていない文字がある
「機械語プログラムの作成」
MZ-80K版とは違う表現で説明
125   「RAM拡張方法」 「USR命令と機械語プログラムファイル」
126   「出力端子の説明」 「テレビ画面の構成と特殊な制御命令」
127   「Z80命令表」 扉絵
128   「I/O入出力命令」
129   「Z80命令表」
130  
131   扉絵
132   「パーソナル・コンピュータ用語集」
133   扉絵
134   「パーソナル・コンピュータ用語集」
135  
136   「701,206時間」
137   扉絵
138   「組み立て上のご注意」 「701,206時間」
139〜
140
  「BASIC SP-5030仕様のまとめ」

 このように、細かいところでかなりの修正が入っています。場合によってはイラストのセリフにまで手が入っているというのも意外。単にMZ-80K専用でなくなったからというわけではなかったんですねぇ。

 特に印象に残るのが「表現の変更」で、まだ当時は大阪弁(関西弁)が全国区になる前のことでしたから、わかりにくい・田舎くさい・野暮ったいなどの理由で標準語にされたのでしょう。そうすると元から標準語だった九九の計算表の文章が例外になりましょうか。これはおそらく読み手によれば「あなたの子供はコンピュータにも劣るバカですか?やれやれ、仕方ないから手伝ってあげましょうか」と受け取られかねないと考えてのことなのかもしれません。


輸出仕様

 シャープは昔から特に欧州向けに家電製品や電卓を積極的に輸出していて、なんとMZ-40Kまで現地仕様にローカライズして売っていたほどという充実のラインナップ。そして、なんと欧州の販社のパソコン部門が、MZ-80Kも売れないものかと1979年4月のハノーファー・メッセに出展して市場性調査を実施したのです。

"コモドール PETとシステムズフォーミュレート(SFC)社の記憶"、2013-08-12 http://t.co/hAZ7oQswpw
この前、SFC社の資料が出て来て懐かしく思っていた (よく通った)。
BUBCOM80もあった… pic.twitter.com/Bkht4XeaJ9

— OGAWA, Tadashi (@ogawa_tter) 2015年6月26日

 このツイートは一世を風靡したベンチャー、システムズフォーミュレート(SFC)社のパンフを紹介したものです。SFCはパソコンの輸入販売やコンピュータ教室、ソフト開発・販売などを手がけた末に理想のパソコンとしてBUBCOM80を自主開発してしまった、伝説のベンチャー企業ですね。このパンフの表紙に…。



 どうやらハノーファー・メッセ出展時と思しき写真があるのです。おそらくシャープのブースの一角で、周囲にもいろいろな製品が並んでいるのか見えてる人が皆80Kに注目しているわけではないのでしょうけど、触ってる人、それを見ている人、二人の背後から見ている二人…とこの写真だけでも4人が興味津々の様子です。

 この展示での好評を受けて、なんとドイツ(当時は西ドイツ)・イギリス・フランス・イタリアでMZ-80Kを売ることを決めてしまいました。それも、いろいろトラブルにならないようにキット製品にしてたのに輸出仕様は完成品とする…とか、それまでとそれからの事情を考えてもびっくりするような扱いです。



 というわけでその輸出仕様MZ-80Kの姿とはこんな感じ…と写真をお見せしたいところですが、残念ながら手元にあるものは現時点において見せられる状態ではありませんので、Wikimediaにある写真で今はかんべんして下さい。

 輸出仕様といってもそこはMZ-80Kなので、スペックという点では国内仕様とほとんど変わりません。ローカライズという意味では

という部分に変更が入っています。

 キャラクタセットを比較してみましょう。左上からディスプレイコード順に並んでいます。

日本仕様のCG 輸出仕様のCG

 基本的には同じなんですが…カナと英小文字以外にいろいろ違いがあるみたいですね? 差分だけ抽出してみると…。

日本仕様特有の文字 輸出仕様特有の文字

 中括弧(カーリーブレイス)が追加されてますね…チェック(市松模様)のパターンも充実しています…微妙な角度の線がたくさんありますが、組み合わせると大きな円が描けるはずです。あとMZ-700まで待たないといけなかった、不足していた矢印もちゃんと備わっています。

 意外なのは元からあったポンド記号の場所が変わってたり、クローバーの葉が太くなっていたり、コイル記号の中間を担う文字が消えていたり…。制御文字に使われているホーム記号ってなぜか横棒が右に突き出ていたのが修正されてますね。一方でダイオード記号の縦線がズレていたり…。

 このように文字セットとして欧州向け仕様というものが作られたために、いわばBIOSたるROMモニタ・SP-1002も対応した処理を行えるよう変更されています。ただこの当時は「向け先ごとに中身を変えたのだから、型番も変えるべき」という発想がなかったようで、ROMモニタとBASICは日本仕様のSP-1002とSP-5010という型番のままで出荷されることになりました。管理上もややこしかったろうに…と思いましたけど、そう言えばMZ-80KやMZ-80Bも同じ型番で輸出してましたし、その後もポケコンとかでも国内・国外共通モデルはカナ表示・入力をつぶしたりという差異はあるのに型番も共通のままだったりしましたね…。

 外観上はCRT部のカバーの色が濃いグリーンになった以外に大きな違いはありません。キーボード横のLEDやアルゴマーク周辺のデザインもそのままですし、CMTのプラスチック部分の形状も同じです。しかし細かく見ていくと、キーボードのキートップの形状が凸型から台形になっていたり、CRT部のカバーのツバの色が黒だったり、メインボードはMZ-80Kの後期バージョンというかMZ-80C以降のものと同じだったりと、実はかなりの部分でMZ-80K2仕様に準じていることがわかります。

 それでいて標準搭載のRAMの容量が20KBだったり、音量ボリュームが背面に出ておらずCRT基板を直接いじらないといけなかったり、妙なところで国内版のMZ-80Kと同じだったりするのですけど…。

 あと電源は日本と海外で電源電圧が違いますから、当然電源ユニットも違うものになるのですが…それに関連した差異を発見しました。

MZ-80C MZ-80K(輸出用)

 すごくわかりにくいですが…マウスポインタをMZ-80Kの方の写真に乗せてもらうと矢印が現れます。ここに国内仕様にはないネジ穴が存在するのです。輸出用の電源ユニットは国内用に比べて少し長いので、ネジ穴を追加したのですね。

 なんでネジ穴が見えてるのに電源ユニットが固定されているのかというと、電源ユニットが抜かれた状態で入手した輸出版MZ-80Kに、国内用の電源ユニットを取り付けているからです。国内用電源のためのネジ穴もありますのでこういうことができるわけですが…どちらの電源でも取り付けられるようにしている…のではなくて、国内用のキャビネットに追加加工しているのではないかと思います。

 輸出された製品に添付されているマニュアルは、もちろん英語で書かれているわけですが、内容としては日本語版とほぼ同じと言えます。つまり、名著の誉れ高い「MZ-80 SERIES BASIC解説」がイラストもほとんどそのままに輸出されているわけです。

 とは言え、日本人でないとわからなさそうな話とか、日本版MZ-80K固有の項目などありますので、ある程度編集もされています。そういうのをピックアップしてみます。

●ページの削除

 日本文化にもとづく内容だったり、セミキット製品ゆえの説明だったりなど、海外の人には馴染みがなかったり不要だったりするページ。

ページ 項目または題
27 デートの場所は?
59 いま、何どきだ?
72 大きな数と小さな数
73 小さな数と大きな数
125 RAM拡張方法
126 出力端子の説明
132〜135 パーソナル・コンピュータ用語集
138〜144 組み立て上のご注意
145 セミキット構成
148 保証とアフターサービスについて

 さすがに大仏が歩いてみたり江戸時代の時刻の話とか日本語での数字の位の呼び方とか、外国人にはわからないですよね…。

 輸出仕様は完成品だったのでセミキットの説明が省かれているのは当然なんですが、標準のRAM容量は同じなんですから拡張方法まで割愛されているのは解せません。別紙があったとか? それとも代理店やショップの仕事?

●イラストの変更

 やはり日本文化にもとづくイラストなので変更されたり削除されたり、部分的に編集されたものがあります。

ページ タイトル 日本語版の表題 変更内容
16〜17 Sailing Now with BASIC BASICの海へ いざ出航 「キショクワリィ オリロ」を削除
29 Further Study of Comma and Semicolon コンマとセミコロンの大研究 猿の「話はチャウけど…」の台詞を削除
50 Grand Prix Using RESTORE RESTOREでピット・イン ヤクザのイラストを削除
52 Another type of INPUT へたな俳句もかずうちゃ当たる 「一発豪快なプログラムをいかが?」のイラストをまるごと削除 
53 LEFT$, MID$, RIGHT$ LEFT$, MID$, RIGHT$ 干支ではなく星座(黄道十二宮)の名前を使用
59 Annuity if Deposited for 5 Years 年金を5年間預けておいたら… 年金を振り込みに行くお婆さんのイラストを削除
62 Jump en masse Using the ON ... GOTO Statement ON…GOTOでまとめて飛んで! 看板にある行き先をイギリスのものに変更
69 What About the Multiplication Table? 九九の計算表はいかが 九九を唱える子供の台詞を削除
82 TI$ is a Digital Clock TI$はデジタル時計 漏刻の水槽の名称を削除

 なお、本来のMZ-80Kの後継機であるMZ-80C・MZ-80K2・MZ-80K2Eについては輸出されず、MZ-80Aの登場まで据え置かれました。日本国内でもスペック的にはほとんど差はありませんでしたから大きな影響はなかったと言えるのでしょうが…最近になってMZ-80Kに見慣れた海外のファンがMZ-80Cを見ると新鮮に思えるのか、がんばってMZ-80Cを敢えて入手している人もいるようですね。

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