大阪電気軌道営業報告書

自第一回〜至第十五回(明治43年9月〜大正7年3月)

自第十六回〜至第三十回(大正7年4月〜大正14年9月)

自第三十一回〜至第四十五回(大正14年10月〜昭和8年3月)

自第四十六回〜至第六十回(昭和8年4月〜昭和15年9月)

 


ジャンル:ノンフィクション(史資料復刻)

出版元:鉄道史資料保存会

形態:B5判

ISBNコード:なし

初版発行:1988/11/01、1989/02/01


 現在の近畿日本鉄道(近鉄)の母体となった会社の、創業から大近鉄統合開始直前までの約30年間の営業報告書の復刻版(株主名簿は省略)である。

 4分冊で2度に分けて刊行された本書は一応鉄道書にカテゴライズされるが、正直言って専門の研究者か余程の物好きでもない限り読みたがらない様な種類の本である。

 何しろ、写真は一切無しで、旧仮名遣い、それも漢字片仮名交じり文で営業報告と損益計算書、それに財産目録が延々繰り返されるのだから、興味のない人間には拷問以外何物でもあるまい。

 私が本書を手にしたのは刊行から4年以上経過してからの事だが、その間鉄道書で知られた同じ書店(大阪の某A書店)の同じ棚に延々鎮座在していた(笑)のを目撃している位だから、恐らく誰もがそのタイトルに恐れをなしていたのだろう(苦笑)。

 だが、こういった書籍ではそれ故に一般に出回る書籍ではまず語られない様な記述が山程収録されているのも事実であり、実際本書を紐解けば借金まみれの創業期から子会社の参宮急行電鉄の設立に始まる飛躍期を経て戦時中の大近鉄成立(厳密にはその一歩手前の関西急行設立で終わる訳だが)までの間に首脳陣が何を目論見、どんな手を打ったかがかなりのレベルで読みとれる筈だ。

 そして、その何一つ文学的修辞の無い乾いた報告文と、延々と羅列される数値の隙間から見え隠れするものを読み解く快感は、極めて特殊なものではあるが(苦笑)、下手な推理小説より余程大きなものがあるのだ。

 実際、こういう本でもなければ車輛の建造コストや維持コスト等は表に出て来ない訳だが、それを見ていると乗客の増減や車輛整備に対する会社の姿勢、あるいは世間の物価の推移が自ずと見えて来る。

 そういう意味では、本書を通読するのは間接的にではあるがこの会社の歩んできた時代そのものを俯瞰する作業であると言えるだろう。

 また、この会社が当初営んでいた電力供給事業の実態や、未成に終わった路線(玉造支線や四条畷延長線など、本書以外では殆どお目に掛からない様な路線名が頻出する)の消長の過程(例えば玉造支線など未成とはいえ工事は結構進んでいた様なので、本書の記述を頼りに現地を散策してみるのも悪くない)がどの様なものであったかが伺えるなど、本書の持つ資料的価値は計り知れないものがある。

 最早入手の困難な書籍だが、ディープな近鉄ファンを自称する人間ならばきっと一つ位は目から鱗が落ちる様な記述に出くわすと思うので、機会があれば一度目を通してみる事をお勧めしておこう。

 本書を刊行した(敢行した?)鉄道史資料保存会は先日第100号をもって定期刊行を終了した季刊の会報「鉄道史料」の他、不定期にマニアックの極みとでもいうべき史資料を刊行している事で知られる団体だが、本書は100冊以上に上るその刊行物中でも恐らく1,2を争う異色の存在であり、そもそも発行部数自体が少なかった。

 それでも売れ残ったものか、予告されていた関西の同業他社の営業報告書復刻は中断された模様で、今に至るも刊行されていない。

 これは、同会がその総力を日本車輌製造創業100周年記念事業の一環として刊行された「日車の車輌史」シリーズに傾注していた事にも理由があろうが、関西私鉄中には昭和初期に一大電力コンツェルンを形成しながら解体の憂き目を見た京阪電鉄など、非常に興味深い企業が多いだけに、困難を承知で敢えて続刊を希望しておこう。


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