エルベの魔弾
ジャンル:軍事フィクション
著者:梅本 弘
出版社:徳間書店
形態:四六判 ハードカバー
ISBNコード:ISBN4−19−860240−9
初版発行:1995/02/28
最初に断っておくが、この作品は第二次大戦末期のドイツを舞台にしたフィクションである。
だが、断じて仮想戦記や架空戦記ではない。
何故か?
それは、この小説が基本的に歴史の流れを変える事に興味を持たず、この時代に生きた一人の日本人少年の視線を通して描かれる、歴史の風景の中に一挿話として存在していても不思議のない物語として構成されているからだ。
何しろ、IV号戦車の車体にV号戦車”パンター”F型の砲塔(シュマール・トゥルムと呼ばれる小型砲塔。無理をすれば積めない事はないが、実際にはそんな馬鹿な真似はしなかった)を無理矢理積み込んだ(笑)『家鴨』に始まり、本物のパンターF型(史実では実戦参加しなかった)、そして赤外線夜戦暗視装置搭載のパンターD型(暗視装置複数搭載の為、あえて旧式のD型なのがミソ。こちらは実戦投入されたらしい)と、そこいらに満ち満ちている俗悪架空戦記顔負けのドイツ超兵器群(笑)が登場し、主たる登場人物達に勝るとも劣らない大活躍を演じるのだから。
ここでご都合主義に走らず、戦車という兵器の持つ威力とその限界あるいは制約をきちんと描いてみせるあたり、流石は「雪中の奇跡」(ソ連・フィンランド戦争(第一次)の研究書)の著者の作品である。
余談になるがこの人は最近突如復活して話題になった「SF3Dオリジナル」=「マシーネン・クリーガー」の生みの親の一人でもあり、更には模型雑誌編集者という肩書きも持っていたりする(苦笑)。まぁ、書こうと思えばバカ戦記フィクション(かつて「ビルマの虎」と題する、ビルマの密林をティーガー戦車が突っ走る(爆)とんでもない小説を書いている)を書ける人なのだが、だからこそ、こういった甘えの許されない物語での戦車のご都合主義的乱用は許せなかったのだろう。
それ故に本書ではある種の定形化した描写が目に付く部分もあるのだが、適度な緊張感と緊迫感、戦場に立つ男達の隠し持った悲しみ、そして国際政治というチェス盤でプレイする冷徹な政治家達、とこの種の小説に必要とされる要素を全て備えた、地味ではあるが良く出来た作品である。
そして、何より主人公の日本人少年(北村透)と、その周囲のドイツ人少年達の成長、あるいはあの幼年期の終わりとでも言うべき時期の過ごし方の描写の奇妙なまでの透徹ぶりにこそ、この作品の価値は見出されるべきかも知れない。
売れない作品はすぐに絶版扱いにしてしまう昨今の出版情勢を考慮すれば入手はかなり困難かも知れないが、戦車戦というものを(そして戦車と突撃砲の相違を)克明に描いた無視出来ない秀作として、お勧めしておく。
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