Hammerfall DSP 9632 (HDSP 9632) / RME


Bus:PCI Rev.2.0 (32bit 33MHz 3.3/5V)

サウンドコントローラ:XC2S150“SPARTAN II” / XILINX + XC9536XL / XILINX + AD1852 / ANALOG DEVICES + ADG451BR / ANALOG DEVICES + C85361-KZ / Unknown

対応機種:PC/AT互換機・PCIバススロット搭載Power Macintosh

動作確認マザーボード:S2885ANRF-T Thunder K8W


 2003年秋にデビューした、RME初の192KHz入出力対応オーディオカード。

 姉妹機種に当たるHDSP 9652がそのDSP性能をADAT入出力各3chによる最大でそれぞれ26chの同時入出力+2系統32ch MIDI入出力の実現に割り振ったのに対し、こちらはDVD Audioの編集ニーズに対応すべく24bit 192KHzで最大8ch入力+8ch出力、そして1系統16chのMIDI入出力対応となっており、その性格はかなり異なったものとなっている。

 それ故、これら2機種間では共用可能なオプション類が意外と少なく、DIGI96/8シリーズやHammerfall 9652/9636との共通オプションでもある44.1/48KHz対応8ch入出力ボード(AEB8-I・-O)を別にすれば、共用可能なのはTASCAMのマルチトラックレコーダー等と接続する為のTDIFインターフェイスカードであるTEBのみとなっている。

 カード本体について言えば、XILINX製FPGAの“SPARTAN II”をDSP内蔵コントローラとして搭載(注1)しており、SPDIF入出力をパルストランスで電気的にアイソレートしてあるなど、DIGI 96/8シリーズ等と共通するRME製オーディオカードの標準的な作風を示しているが、これまでにない192KHzという高周波数のデジタル信号を取り扱う為か、ノイズ対策として電源・アナログ信号処理関係のブロックに多数のケミコン(注2)が実装されているのが目立つ。

 また、コネクタ類としてはブラケット部にD-SUB 9ピン端子(デジタル入出力)とD-SUB 15ピン端子(アナログ/MIDI入出力)、それに防塵シャッター内蔵TOS LINKコネクタによるADATオプティカル入力/出力端子が実装されており、専用ブレイクアウトケーブルにより標準状態ではステレオアナログ入出力各1ch(RCA端子)・ステレオアナログ出力1ch(TRS:標準ステレオジャック)MIDI入出力各1ch(標準DIN)そして同軸SPDIF入出力各1ch(RCA端子)が提供されている。

 ここで「標準状態では」と断ったのは、言うまでもなく入出力機能を拡張・強化する専用オプションが複数用意されているからで、ブレイクアウトケーブルとしてはステレオアナログ入出力をバランス伝送(XLR端子)に変更したBO9632-XLRMKHと同軸SPDIF入出力にAES/EBU入出力(XLR端子)を追加したBO968が、そしてブレイクアウトボックスとしてBOB1(注3)が提供されている。

 さて、肝心の音質についてであるが、搭載されているDACが同じAD1852である為か、48/96KHz出力時の音質はDIGI96/8 PSTと一見大差無いのだが、やはり上位機種でしかも後発だけあって、表現力の点ではこちらの方が上回っている様に見受けられる。

 只、このカードはミキサを搭載した関係でDIGI96/8 PSTと比べてCPU負荷がやや大きくなっており、シングルプロセッサマシンではWindows上でのCPUパワーの割り振りをプログラム優先ではなくバックグラウンドサービス優先に設定しないとASIO経由での176.4/192KHz出力はやや厳しく、快適な利用には2/4/8プロセッサによるSMP構成の高速CPU搭載マシンである事が望ましい。

 またマニュアルにも記載がある通りPCIバス性能の低いマザーボード(特にVIAのチップセットを搭載する物)や低速なHDDの利用はクラッカルノイズ発生の原因となる可能性がある為にとても推奨出来ないから、その使用に当たっては必ずマシンを構成する各パーツの性能を吟味し、充分なパフォーマンスが得られる事を確認しておかねばならない。

 その意味ではこのカードはとりあえずマシンに挿せばそれで幸せな録再環境が得られたDIGI96/8 PSTと比べて厳しい使用条件であると言え、あちら以上に万人にお勧め出来ない仕様だが、その厳しい条件を乗り越えれば素晴らしい機能が得られるのも事実で、DIGI96/8 PSTで満足出来ないならば一度試してみる価値があるだろう。

 ちなみにオーディオカードでのミキサの搭載については賛否両論あると思うが、このカードの持つTotal Mixと呼ばれる40bit精度のミキサはその操作に慣れるまでには少々手間を要するものの、一旦慣れてしまえば非常に強力且つ便利なツールとして利用出来る性質のもの(注4)なので、少なくとも筆者は肯定的にとらえている。

 なお、流石にこの時期の製品になると当初よりPCIバスの動作電圧は3.3/5V両対応になっており、PCI-Xスロットに挿しても特に問題なく動作しているが、上記の通りかなり対策を講じてはあるもののアナログ音声回りにはPCに搭載されている電源が発生するノイズに敏感な所があり、電源を選ぶ(注5)カードである事には注意されたい。


 (注1):SPARTAN IIだけでは機能的に不足であったのかそれともI/Oの応答性向上を求めたのか、CPLDのXC9536XLも併用されている。ちなみに、DIGI 96/8PSTでは実装されていた外付けSRAMが基板上に見当たらないが、これはFPGAの高性能化でSPARTAN II内の内蔵SRAM容量が増大し、それで賄える様になった為である。また、外付けより内蔵の方が低レイテンシ化には有利であるというのも大きい。

 (注2):日本ケミコンのLXZ・SME・KMEと、用途に応じて高級品が奢られており、特にLXZはマザーボードのCPU周りに用いられるのと同仕様のもので、この系列のケミコンが高周波平滑用の低インピーダンス品である事と、微弱なアナログ信号を扱うADC(C85361-KZ。メーカー不詳)周辺に用いられている事を合わせて考えると、やはり192KHz信号の漏洩ノイズ対策が目的と推測される。

 (注3):標準状態と同じ入出力端子を搭載するが、3m長の専用ケーブルでカード本体と接続する様になっており、取り回しの利便性は飛躍的に向上する。但し、伝送距離が長い事から周波数特性の点で問題があるのか、192/176.4KHz信号は非対応とされている。

 (注4):実はこれこそがCPUパワーを必要とする最大の原因である。只、Input・Playback・Outputで各12chのミキシングレベルを自由に制御可能なこの機能(どのチャンネルがどのチャンネルにルーティングされているかをマトリクス表示する機能も搭載されている)はアナログミキサの使用経験のある人間にはすぐにその概要が理解出来る程度には判りやすく、しかも各チャンネルのレベルが個別に表示されるので、一旦操作に慣れれば手放せなくなる機能である。もっとも、このミキサがある故にSPDIF出力でバイナリ不一致が発生するのも確かなのだが・・・。

 (注5):電源そのものを交換しなくとも、事実上無防備のATX電源ケーブルをシールドして飛びつきノイズを阻止したり、電源のアースをちゃんと落としてやったりするだけでもかなり違う。要するにオーディオ機器では当たり前の対策を講じてやれば大概はストレートに肯定的な反応が返ってくるという事である。


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