SM-B-8000
(Z8000採用シングルボードコンピュータシステム)

 もうすっかり忘れ去られてしまった感がありますが、16ビットマイコン時代の初期に有名だった製品として、ザイログのZ8000シリーズというものがありました。ベストセラーのZ80・高機能化を狙ったZ800(後のZ280)のさらに上位に位置づけられるマイコンでしたが、IBMに採用された8088/8086・UNIXワークステーションに好んで用いられた68000などとは対照的に、搭載製品が少なくメジャーになりきれませんでした。

 シャープはZ80からの流れでZ8000のセカンドソースライセンスを取得し、LH8000シリーズとして展開していました。UNIXベースの開発支援システムやトレーニングキットなどデバイス販売促進のための製品を発売する一方、完成品としてのコンピュータシステムを組み込み用途に販売していました。このあたりは8ビットのSM-B-80DやSM-B-80Cなんかの展開と同様ですね。

 ここではそのシャープ製Z8000ボードのいくつかについて紹介いたします。


LH-16H01
(Z8002 CPUボード)

 システムのメインとなる、CPUボードです。Z8000には8Mバイトのメモリ空間のあるZ8001と64KBのZ8002があるのですが、このボードではZ8002が使われています。1980年代前半のシステムですから、限られた空間に搭載できるメモリ量などたかがしれてますので、現実的な選択ではないかと思います。


 これがボード全景。黒いコネクタが並ぶ上辺は左右の端にカードプラがあります。中央のソケットはROM用のソケットと思われ、たぶんモニタだと思いますが標準搭載のROMが装着されています。3組のソケットの下はRAMですね。メモリがそれぞれ横に二つずつ並んでいるのは16ビットバスを8ビットずつ分けて接続しているからです。
 ボードの主要なLSIとしては、ROMの左にあるのがZ8002 CPU、その上がZ8030 SCC(Serial Communication Controller、シリアルコントローラ)、ROMの右上にあるのがZ8036 CIO(Counter/Timer and Parallel I/O、パラレルI/O+カウンタ・タイマ)です。マニュアルがないので詳細は調べられていませんが、黒いコネクタのうち左端がRS232Cのようです。多分シリアルでアクセスできるモニタプログラムがあるんじゃないかと思っているんですが。


 こちらが裏面。ま、そんなに部品点数の多かった時代ではないので、裏面に実装されている部品はありませんね。
 ところで、下のコネクタの間にこのボードの型番とは違う「LH-8H801」なる型番があるんですが、これってなんなんでしょうね?LH-16Hxxとかいう型番になるまえに仮でついていた型番とか?



 セラミックパッケージのLSI。手前がZ8002、向こうがZ8030。やっぱり高価な部品はソケット実装にするようです。

LH-16H08
(BASICボード)

 今時のこんな形のシングルボードコンピュータだと、x86系ならばPCと同じアーキテクチャですし、他のCPUでもボードサポートパッケージなんかが用意されて汎用のOSが使用できるものが多いと思います。でもこれらのボードが販売されていた時代では組み込みOSなんてのは想像もつかなかったでしょうから、直接動作するプログラムを書かなければなりません。でもZ8000用アセンブラなんてあちこちのサードパーティが出しているわけでもなく、せっかくボード製作は買い物で済まそうとしているのにソフト開発環境にお金がかかっていたら意味が無くなってしまいます。

 そこでシャープの用意したのが、BASICインタプリタを搭載して簡単に必要な処理を記述できるBASICボードです。プログラムはバッテリバックアップされるSRAMに格納することでストレージデバイスを不要とし、より開発の敷居を下げようとしたのです。今でも8051やPICなんかで「BASICstamp」の名前でインタプリタ搭載製品がありますが、あれと似たようなユーザーに向けた製品なのでしょうね。




 ボードの中央をメモリが占める、特徴あるデザイン。LH5128という型番の2KBのSRAMが16個ありますので、合計32KBですね。その右にあるROMがBASICインタプリタなのでしょう。
 右下に水色の小松製作所のマークのような部品がありますが、これがニッカドバッテリですね。ここに充電された電気でメモリの内容を保持します。
 SRAMの上にあるチップがZ8090 UPCで、このボードの中で最も高機能な部品です。
 Z8090 UPCのアップ。UPC(Universal Peripheral Controller)とは、実はZ8マイコンの一種でして、プログラマブルなZ8000周辺コントローラと言い表せるような製品です。
 Z8とはZ80とは違うマイコンで、ROM/RAMを内蔵する組み込み向けマイコンのシリーズです。Z80に匹敵するほど売れた製品ではありますが、やっぱり組み込み向けなのであまり表には出てこないシリーズですね。もっとも、インテルでも8049とか8051って大ヒット製品がありますけど誰もが知ってるというほどでもありませんし。

 それはともかく、UPCはチップ自体はZ8000バスで接続される周辺LSIなんですが、中身がZ8なので他の専用LSIと比較して複雑な処理を組み込むことが可能です。Z8000 CPUからアクセスできるレジスタが、UPC内部のZ8コアからもアクセスできて、そのレジスタを介することで通信を行うようになっています。

 そして、最近はすっかり見なくなったこのパッケージ。いや、開発者しか見たことはないか。実は私もこれで開発したことはありませんが、ピギーバックパッケージですね。LSIの背中にICソケットが載っていて、そこにICを差し込むことができるのです。まさに親亀子亀。それを英語に訳すとピギーバックということになるらしいです。
 ピギーバックって調べてみたら語源不詳なんですってね。誰からだったか、ピギーバックというのは豚が交尾する様なのだと下品な説を教えてもらったことがあるんですけど、定説ですらないのか…。

 ピギーバックパッケージは、このUPCのような組み込み向けマイコンのプログラムを開発している最中に良く用いられます。開発したプログラムを実際にROMに組み込んで動かすわけですが、当然のようにバグが出て修正の必要が生まれます。そんな時、今時のマイコンではROMはフラッシュメモリになっていて、ケーブルを1本接続するとか、ソフトでもって書き換えができるのが当たり前になっていますね。
 しかしこの当時そんな便利なものはありません。ROMといえば紫外線で消すUV-EPROMが普通ですし、開発者が現場で作成できるROMなんてそれぐらいしかありません。最初からROMが外付けになるマイコンの開発なら関係ありませんが、最終的にそのROMまでワンパッケージになるものを使う(部品点数を減らせる、工場出荷時に書き込むので作業コストを安くできる)つもりなのですから、できるだけ最終形態でデバッグもしたいところです。
 そこでLSIパッケージにICソケットを載せ、そこに普通のROMを装着して内蔵ROMと同様に扱えるようにしたこのピギーバックパッケージの登場です。製品版の基板が完成した後、出荷時に搭載するマイコンの代わりにこれを装着して、ROMだけはとっかえひっかえできるようにすればデバッグの確実性も増すことでしょう。

 しかし…ピギーバックパッケージって本来は開発用で、製品にはマスクROMを内蔵したものに代わるのでそのまま製品に搭載することは普通ないはずなんですが…。カタログを見るとピギーバックではないタイプのものが搭載されていますし、何か開発途上で問題があったんでしょうか…。

 ちなみに、時代が進むとUV-EPROMをマイコンチップと統合する技術が開発されて、消去用の窓がついたでっかいROMみたいな見た目のマイコンが登場するようになります。PBC-20Hに搭載されているマイコンもそんなタイプですね。



 ところで、CPUボードといいBASICボードといい、この大きさ・コネクタのボードってなんかVMEとそっくりなんですが…。

 というより、まずVMEなんかより前にEurocardという規格(PDF)があるのですよ。VMEはその規格を流用するような感じで規格化されたものですね。CompactPCIもそう。そしてこのページのボードも、そのサイズなどから考えるにEurocardを流用したか、則ったかで作られたボードのようなのです。
 ボードのコネクタにはZ-BUSという割り込みデイジーチェインを前提としたバス信号が出ているようです。ZBIなどとも呼ばれていたようですが、ネットで調べてもあまり情報は出てきません。これもひとつのロストテクノロジーというわけですね。


LH-16P01
(専用カードケージ)

 ボードがシリーズ化されているということで、純正のラックというようなものも用意されていました。



 こちらが正面…なんでしょうかね。一応シャープのロゴがある面です。本体が銀色ということで緑のシートの上では緑色に染まっちゃいますね…。
 VMEやCompactPCIラックはボードの差し込み口を手前に持ってきて、部品面を向かって右になるように立てて使うのが一般的ですが、これは上から差し込むタイプです。



 背面から。こちらの方が部品が見えて映えるんですが…。



 上から。蝶番のように回転する金具がありまして、写真の向かって左がそれを開いたところ、右が閉じたところ。穴が空いてますけど、閉じた状態でその穴からネジ留めすればカードプラが押さえられてボードを取り出せなくなるようになっています。



 側面にある電源コネクタ。



 上からバックプレーンを覗いたところ。CPUボードのためのスロットが決まっていそうな気がするんですが、資料がないのでちょっと不明。一番上のスロットがパターンだけあってコネクタが実装されていませんが、ガイドレールはありますので必要であれば増設してくれ、ということなのでしょう。



 バックプレーンの裏面。中央に金具が通っている、至極まっとうな設計ですね。ここに金具があってネジ留めされているからこそボードの抜き差しがスムースにできるのです。



 付属する電源コネクタ部品。それぞれのボードにもコネクタに対応する部品が添付されていたようで、なかなか親切じゃないでしょうか。

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