PC-3300

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 パソコン時代に後の世に大きな影響を与えた発明や製品がいくつかあります。表計算ソフトもその一つで、複雑な計算をプログラムして人間に代わって計算させるとか、それまではおもちゃ程度の存在だと思われていたパソコンを実用ツールの地位へ一気に引き上げるのに貢献しました。Apple][用として1979年に発売されたVisiCalcとそれに続く表計算ソフトを筆頭とするビジネスソフト、そしてそのユーザーの存在がIBMをしてパソコン開発に乗り出させた動機のひとつだと言われていますね。

 その3年後、あのマイクロソフトがApple][などに発売した表計算ソフトがMultiplanです。あらかじめ移植性を高めた構造にしてあったことからサポート機種が続々増え、X1turboやMZ-2500にも移植されるなど、後にLotus1-2-3に取って代わられるまでは表計算ソフトのトップの座にありました。

 そんな1985年頃、ビジネスツールとしてポケコンを展開するシャープは、Multiplanの計算式を含む表データをシリアルで転送し、プログラムを組むことなくそのまま実行できるポケコン・PC-3300を発表します。これはOh!MZ1985年7月号に掲載された、ビジネスショウでの出展の様子です。

 同じ号の新製品ニュース記事(ペンギン情報コーナー)にはこんな記事も。

 この段階ではMZ-6500用のMultiplanは未発売で、MZ-6500とはCE-360、IBM5550とはCE-370というソフトでデータをやり取りするとあります。どれもいいお値段しますね…。

 もうひとつ、同じ月のI/O誌の記事も載せておきましょう。こちらにはROMの容量、通信速度がありますね。

 このポケコンの存在を思い出して以来ずーっと探していたのですが、ヤフオクはおろか、単に持っているという人さえ発見できませんでした。ビジネス用だし、定価99800円ではあまり数も出なかったのかもしれませんけど、これはどうしたことか…まさか、発売中止されたなんてことありませんよね…?

 …などと思っていたりしたある日、とあるオフ会にしらけん(@srkn_tech)さんが実機を持ってきてくださいました! ちゃんと発売されてたんだ!!

 この機会を逃すまじと撮影した写真を用いて、ちょっと紹介というか考察してみようと思います。

 見た感じ、PC-1350そっくりですね。実際、LCDの大きさやキーの物理的配置、電源スイッチの位置関係までほぼ全く同じです。ほぼ、というのは機能キーのところで増えたキーがあるので、厳密には同じではないということですね。

 あと色調が、基本的にアイボリーです。ビジネスショウの写真だともっとシルバーっぽいイメージだったのですが…これはMZ-6500なんかと合わせて、ビジネス用だからこの色だ…という感じで決めたんでしょうかね。

 光って見えにくいですが、POCKET COMPUTERではなくPORTABLE COMPUTERとLCDの上に書いてあります。当時はPC-1350はポータブルコンピュータという分類でしたので、PC-3300も同じだというわけですね。

 英字と英記号のキー。アルファベット順に並んでますよ。これを撮影している時はなぜか全く気づいていませんでした。タイプライタ配列はとっつきにくいから? Multiplanは表のセルを「RnCn」として指定しますから、そちらの都合ではなさそうですね。

 記号は一部タイプライタ配列に従っていそうで、結局自由に並んでますね。シングルクォートや不等号といった、PC-1350にはないものもあるようです。

 ポケコンのカナ入力がローマ字になる前の時代ではありますが、PC-1350やPC-1261なんかとは違う、五十音順でアからノまでとハからロまでを入力するモード切り替え式になっています。他のモデルに見られない並びですね。

 こちらは数字キー周り。MODEキーとかないし、BASICインタプリタがある雰囲気じゃないですね。かろうじて電卓モードはあるようですが、完全に表計算に特化したソフト仕様だということなのでしょう。

 そういえばここまで見て英字を小文字で入力する方法がわかりませんね。できないはずはないと思うのですが…。

 カバーをつけたところ。ポータブルコンピュータのスタイルそのままです。でもアイボリーなのは見慣れないですね…。

 裏面の雰囲気は完全に色違いのPC-1350ですね。

 こちらは本体の左側面、他のポケコンならCE-124(カセットI/F)やCE-126(プリンタ)が接続される11ピンコネクタが見えているはずのところなのですが、ありませんね。金型を流用しているからか、CE-124接続時に突起部分と嵌合する部分はそのまま残っていますが、肝心のコネクタは開口部がありません。

 キーには「通信」キーの2ndF機能として印字とあるのですが、プリンタが接続できないとなるとどうなるものなのでしょうか? PC-1350ではプロッタプリンタのCE-515Pとの接続が案内されていた(シリアルで接続できる)ので、これもそういうことなのでしょうか?

 RAMカードが入る構造もPC-1350と同じ。そしてこの時代はハーフサイズのRAMカードがありませんので、大型のものが1枚入るだけになっています。

 見た目はほぼ完全にPC-1350の派生品ですね。中身もそうなのかは残念ながら不動品だったのでよくわかりませんが…いや、動作していたとしてもROMのほぼ全てをMultiplan互換表計算機能に使っていそうな感じですし、ソフトを通して見る限りわからない気がしますね。

 表計算がどの程度の速度で処理できていたのか、パソコンと通信するデータ形式はどの程度SYLKファイルと合致していたのか、興味は尽きません…。

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