MZ-8BCNの真実

 パソコンが登場した当時から、「ユニバーサルI/Oカード」なるオプションがメーカー純正で存在していました。これは特に規格化されていないデジタル信号を入出力するためのもので、パソコンが当初から単なるおもちゃではなく制御機器としての活用が期待されていたことを示唆しています。現在はこういうボードは純正ではなくInterfaceとかCONTECなどのサードパーティが「汎用DIOボード」などという名称で販売していますが、サードパーティ成立まではメーカーが純正品で供給していました(例えばNECでも、PC-8001/8801用にPC-8012-01という製品を出していました)。
 そしてご多分に漏れず、シャープのパソコンにもユニバーサルI/Oボードがありました。MZシリーズで言えばMZ-80I/O1とMZ-8BIO1です。製品自体は特に変わってもないボードなのですが、関連オプションに関するカタログの記述が謎を呼んでいたのです…。


ユニバーサルI/Oカードとは?

 もう一度ユニバーサルI/Oカードについて説明しておきましょう。普通何らかの周辺機器をパソコンにつなぐ場合は、規格化された通信I/Fボードを使用するか専用のI/Fボードを使って接続します。規格化された通信I/Fとは、具体的にはRS-232CとかGP-IBのことです。そういう通信ポートを備える機器とはケーブル一本でつなげられる方が簡単です。また専用のI/Fでつながる機器というのはFDDとかマークカードリーダとかのことで、どうしても純正で用意しないといけないものはこうなっている場合が多々ありますね。
 しかしメーカーの思惑とは別に、ユーザーはパソコンをコントローラーとしてあらゆるものにつなごうと考えるものです。それは必ずしもRS-232Cなどを備えているとは限らず、違うメーカーの製品であったりするわけです。まさか、パソコンメーカーがいちいち他メーカーの独自I/Fに対応したボードを出すわけにもいきません。
 そこで考えられたのが「汎用I/F」です。だいたいにおいて制御したい機器に必要な信号はデジタルです。デジタルで多ビットに対応した入出力ボードを作れば、たいていの機器に対応できるというわけです。

 MZ-80K/Cシリーズ用に発売されたユニバーサルI/OカードMZ-80I/O1は、取り扱う信号に柔軟に対応できるようにプルアップ・プルダウン抵抗が取り付けられるパターンが用意されているほか、複数枚の同時使用が可能なようにI/Oアドレスが変えられるようDIP SWが備わっています。信号は専用のケーブルを基板上のピンヘッダに接続して、I/Oボックスの後ろからそのケーブルを出します。実際にSYSTEM PROGRAMやSYSTEM PROGRAM BACK UP、F-DOSではMZ-80I/O1を使用して紙テープパンチャ・リーダを接続する方法がマニュアルに掲載されています(紙テープデバイスを接続可能にする目的は、PROMライタにデータを渡すためです。当時はPROMライタはシリアルポートやフロッピードライブなどがサポートされておらず、代わりに紙テープが標準デバイスとしてサポートされていたのです)。
 MZ-80B用に発売されたMZ-8BIO1も同様で、拡張I/Oポートの仕様が変わったのでD-Subコネクタが基板上に直接設けられるようになりましたが、I/Oアドレスが変えられたり任意にプルアップ・プルダウン抵抗が取り付けられるようになっています。やはりFloppyDOSなどのマニュアルには紙テープリーダ・パンチャとの接続例が記述されています(いいかげん紙テープでもない時代のはずですが…。例に挙げられている紙テープリーダ・パンチャの機種も変わってないので、特にマニュアルの見直しがされなかったということかもしれませんけど)。

 なお、Oh!MZ誌84年6月号のグラフィック特集にて、MZ-2000にMZ-5500用マウスMZ-1X10を接続するためのI/FとしてMZ-8BIO1が使用されています(ついでにMZ-8BCNも使われています)。MZ/X1シリーズのマウスはシリアル方式なのですが、まぁパラレルでもその形式の信号を出し入れすればいいわけで、これもユニバーサルI/Oカードが「ユニバーサル」なところでしょう。


ユニバーサルI/Oカード用コネクタ?

 ところで、例えば「MZシリーズ標準価格 1982・6・25」と銘打たれたカタログを見てみると、MZ-80B/2000用オプションとして「ユニバーサルI/Oカード用コネクタ MZ-8BCN」なるものが2500円でラインアップされています。そのカタログにあるシステム構成図によると、ユニバーサルI/Oカードと接続される機器(「PTR・PTP等」と記述)との間にもそれが挟まっています。
 前述の通り、MZ-80I/O1にはボード上にコネクタがなくMZ-8BIO1にはあります。コネクタがないMZ-80I/O1のためにコネクタのオプションがあるのなら話はわかるのですが、逆にコネクタのあるMZ-8BIO1のためにコネクタのオプションがあるのです。さらによくわからないことに、同じ趣旨のカタログである「MZ-80標準価格表 1981・10・1」にはMZ-8BCNの記述がありません。後から企画されたものなのでしょうか…?


MZ-8BCNの正体

 ある日、この一連のページをご覧頂いた方からメールが届きました。私と同様の疑問を抱きながら、最近になってMZ-8BIO1とMZ-8BCNを入手してようやくその意味がわかったという内容でした。そしてそのメールには写真も添付されていたのです。

 見るとひじょうに小さい箱に入っていて、やはりコネクタ部品しかないのがわかります。コネクタ自体はパーツ店に行けば手に入るD-Sub37ピンのオスで、特に何も加工されていないようです。また下にある黒い四角っぽいものはコネクタカバーで、MZ-80シリーズ当時に純正ケーブルに採用されていたものとまったく同じもののようです。このカバーはケーブルが出る根元からケーブルの太さの溝が掘ってあって、そこにケーブルを入れることでコネクタから横方向にケーブルを伸ばしやすいようになっています。その形に固定するための、結束バンド用の四角い穴も開いています。
 なお、このコネクタカバーはMZ-2000発売以後使われなくなっています。
 拡大写真です。ごく普通のD-Sub37ピン・オスコネクタです。ちなみに、この写真だとロゴの"N"の字がよくわかります。って"M"と大差ないんですが…。

つまりは

 これは商品名の通り、ほんとうにただの「コネクタ」です。日本橋や秋葉原に近い人とか、パーツを集めて工作するのが当たり前の人にはわざわざこんなものをご丁寧に純正オプションとして発売する理由がわかりません。私の疑問も、根はそこにあったのです。
 しかしながら、「普通」の人からすればこれがオプションとして存在するのももっともな話です。まず、利用者は必ずしもパーツ屋に日参できるような環境にあるわけではありません。地方都市在住かもしれませんしね。そういう人にはメーカーがちゃんと純正品を用意しておけば安心して使ってもらえます。さらに、単純な部品ではありますけれども、よくわからないパーツ屋から買ってくるよりできるだけメーカー純正で揃えたほうが後で問題が起こったときにメーカーに相談に乗ってもらいやすいということもあります。

 わかってしまえば単純なお話でした。でもこんなしょうもない部品に妙な謎があったりすると、なまじっか手に入りにくいだけに謎を解くにも一苦労ですね…。

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